悪気はないんです。ちょっと複雑な事情と、未来の為の遅刻なんです。

遅刻は、当たり前ですがダメなことで。
それが幼少期から常態化するというのは、どうにも感心しませんが、それ故、この作品を読んでみたいと初めの数行で心を掴まされました。幼稚園、小学校とファンタジーにあふれた遅刻の言い訳は、中学校で、中二病になり高校ではSFめいて。成長するにつれ、遅刻の言い訳もどんどんと成長していっているんですよね。早く大人になりたい、子供に戻りたい。なんて、よく言いますが、子供は未知へのあこがれや、未来への期待から。大人はしがらみのない純粋なあの頃に思いを馳せて。それこそ、何かにつけて言い訳のように言いたくなります。世知辛い……。
就職の最終面接の際に出会った死神が、宣告してきたという寿命。タロットカードにおいて、死神のカードは正位置ならば「終末」や「終了」等文字通りの意味を持ち、逆位置ならば、「再スタート」や「心機一転」等々ポジティブな意味に変換されます。ここで主人公が、死神からの宣告を受けて、己に突きつけられた死神のカード(正位置)を逆位置にすることにより、ここで人生が好転する好機が訪れたのではないでしょうか。だからこそ、面接に受かることができたのでしょう。
恋人との一幕も、楓には信じてもらえなかったものの、後の展開を思えば「僕」の本心は確かに、楓には届いていたなんて、なんという星の巡り……。心ばかりの、心からの、本心。結婚式の言い訳も、楓にとってはそんな「僕」がとても素敵だから、心を離さずに呆れたように笑ってくれたのだと思います。幼い頃か「僕」と共に生きてきたから。きっと、楓は「遅刻の言い訳を許す『言い訳』」を心の中では考えているんじゃないでしょうか。
訪れる最期の時。遅刻をすることができず、倒れる「僕」。
あちらの世界で待つ死神は時計片手に、「僕」を待っていて。
でも、その時計の時間は当てにならない。妖精の薬も勿論、効果を発揮したのだろうけれど。もし私なら、最後にその死神にこう言ってやりたいと思います。
「なぁ、その時計。やけに古いけど……もしかして、電波時計じゃないの? まぁ、こっちの世界に電波時計なんてものがあるかは分からないけど。……ほら、やっぱり。1時間ずれてるじゃん」と。それを信じてくれるか、遅刻の言い訳と取るかどうかは、死神次第ですが。

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