いつか、幸せに

初音

いつか、幸せに


 町はずれの川原は、子供たちの遊び場だった。町人の子も百姓の子も、金持ちの子も貧乏人の子も、分け隔てなく集まり、鬼ごっこやかくれんぼに興じていた。


 ある日、みねと良太郎は、かくれんぼの鬼を撒いて木陰で休んでいた。


「ここ、この前見つけた穴場なんだ。しばらくは時を稼げるぞ」

「でも、二人で一緒に見つかったら……」

「それでもいいよ。みねが最後の一人になったら、さみしー! って泣くかもしれないしな」

「い、今は別にそんなことで泣かないもん!」


 良太郎の言う通り、この木陰は穴場だったようで、鬼はなかなか現れなかった。黙っているのもつまらないので、みねは話題を探した。


「そういえばおよしさん、お嫁に行くんだってね」


 昨日、両親がそんな話をしていた。お芳は良太郎の姉だ。豪華な花嫁衣裳で、大店おおだなに嫁ぐそうな。

 良太郎は「うん」と頷いた。


「だからこれからは、俺がお父とおっ母を支えなきゃ。それでいつかは嫁をもらって……」


 良太郎は、じっとみねを見つめた。


「俺、嫁にするなら、みねがいい。がんばって店を大きくして、金持ちになって、みねを幸せにするから」


 みねはぼっと顔を赤らめ、俯いた。恥ずかしくて良太郎の顔を直視できない。

 ただ、嬉しかった。なんて素敵な将来なんだろう。


「うん、約束ね」


 実際、みねの家では遼太郎の家に釣り合わないのだが、よわい十歳の二人には知る由もなかった。


 ***


美羽みはね姐さん、伊勢屋の旦那さんいらっしゃいましたえ」


 禿かむろに連れられ現れたのは、良太郎だった。美羽という源氏名をつけられたみねは、笑顔で良太郎を迎え入れた。あの「約束」をしてから間もなく、みねは吉原に売られてきていたのだった。


「今日も来てくれてありがとう」

「俺にできるのは、これくらいしかないからさ」

「うん、約束だもんね」


 吉原ここでいい。遊女これがいい。

 豪商の娘を娶った良太郎に幸せにしてもらうには、こうするしかないのだから。

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いつか、幸せに 初音 @hatsune

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