いいわ、け

御角

いいわ、け

 で、でも……まだ付き合って、たったの一年よ? 本当に、いいの? だって、もう遊べなくなっちゃうのよ……?

 え、いや。私はもちろん、そんなことできるほど若くはないし、そんな元気もないし……そもそもしないけど、そういうことじゃなくて!

 ……あなたはまだ若いじゃないって話をしてるのよ。今から考え直しても遅くない。私、絶対に怒ったりしないわ。

 ほら、あなたってかっこいいし、もっと可愛い子だって周りにたくさんいるでしょう。何も、私なんかじゃなくても。

 この前だって、病室からだけどチラッと見えたんだから。キラキラしたアイドルみたいな子が隣にいるの。

 ただの同僚って言うけど、あれは確実に恋する女の子の目だった。なんでって? わかるわよ、私だって同じだもの! ……まあ、もう女の子って言えるような歳でも、ないけど。

 だって……だってさ、私、バツイチだし……すっかりオバさんになっちゃったし、小さいけど子供だっている。いわゆるコブ付きってやつだよ? コブ付き。

 それに……なにより、あと数年の命、だし。

 お金だけの問題じゃない。きっといっぱい、数えきれないほどいっぱい、あなたに迷惑かけちゃうと思う。

 それであなたに嫌われるのが、私は一番怖い。それくらいなら、遠くで。それこそ、空の向こうであなたが幸せになるのを見守ってる方が、ずっとマシ。

 私? 私は、あなたが幸せならそれで十分じゅうぶんなの。……それだけで、私も幸せになれるから。

 あなたのことは、嫌いじゃない。むしろ、好き。大好き。でも……いや、だからこそ、あなたの将来を奪ってまで、する価値はないと思う。

 それでも、どうしても? 一生、考え直さないって、今、ここで誓える?

 私、結構束縛強いよ? 死んでも、浮気しないか心配で取り憑いちゃうかもよ? 子供の面倒だって、見なきゃいけないんだよ?

 ……そう。そこまで言うなら、わかった。


 いいわ、けっこん、しましょうか。

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