第六話 フローラ姉様の婚約

 私は七歳になり、魔法を使えるようになってから一年が過ぎたわ。

 魔力も順調に増え続け、私の部下達もかなり増えたわ。

 部下と言うのは、おはぎやラムネの様な、私と契約した動物や魔物の事ね。


 黒猫のおはぎには、子分が四匹。

 青い鳥のラムネには、お友達の小鳥が三羽。

 ネズミのチョコと、その家族が五匹。

 レッドファルコンのイチゴ。

 シルバーウルフのジェラートと、その家族が八匹。

 ホーンホースのエクレア。


 魔力が増えて余裕が出来た際に、おはぎとラムネに捕まえて来なさいと言ったら、このような結果になってしまったわ…。

 ネズミやファルコン(隼)は分かるとしても、シルバーウルフを捕まえて来た時は驚いたわね。

 だって魔物なのよ!

 ラムネがシルバーウルフの背中に乗って来た時には、ラムネに裏切られたのかと思ってしまったわ…。

 話を聞けば、ジェラートの寿命が尽きかけて来ている所にラムネがやって来て、私の所に来ないかと誘われたのだそうよ。

 ジェラートは死ぬよりましだと思い、私と契約をしてくれたそうなのよね…。

 私と契約した事により、私が解約しない限りジェラートが死ぬことは無くなったわ。

 私としても、魔物と言う貴重な戦力が得られたことは嬉しいし、解約するつもりも無いわ。

 私と契約したジェラートが家族も私の所に連れて来たので、この数になってしまったわ。

 シルバーウルフと言う魔物が九匹も私の部下になってくれた事はとても心強く、野生の馬を捕まえるのも簡単だったわ。

 私は命令しただけで何もしていないのだけれど、勝手に捕まえて来てくれるのであれば、召喚魔法はとても便利な魔法だと思うわ。

 魔法書に書かれていた、術者一人で弱らせないと契約出来ないと書いてあったのは、嘘なのかとも思うわね…。

 まぁ、ジェラートは死に掛けていたのだし、例外だったのかもしれないわね。

 ネズミも、おはぎが咥えて来た時には驚いたし触るのも嫌だったのだけれど、部下にしてみれば意外と可愛いのよね。

 私はペットを飼った事は無かったのだけれど、ハムスターとか飼っている人もいたし、見た目がちょっと違うだけよね…。


 こんなに部下を増やして何をするのかと言われれば、今のところ何もすることが無いわ。

 精々、私の魔力を消費して、日々増やしてくれるだけだわ。

 たまに、部下との五感を共有して楽しむくらいよね。

 レッドファルコンのイチゴと五感を共有した時は、空を飛ぶのがこんなに気持ちが良くて、景色が素晴らしい事を知れたわ。

 ネズミのチョコと五感を共有した時、目の前に猫が現れた時には、食べられてしまうのかと恐怖を覚えたわ…。

 特別な理由がない限り、チョコとの共有は二度とやりたくないと思ったわ。

 部下の話はこれくらいにして、家族の事を話すわね。


 今日、フローラ姉様は貴族のパーティーに出席するため、お父様と一緒に出掛けて行ったわ。

 フローラ姉様がパーティーに出席したのは、十歳になったフローラ姉様の婚約者を決めるためね。

 お父様の話によれば子爵家か、上手く行けば伯爵家に嫁ぐことが出来るそうよ。

 フローラ姉様は可愛らしくてとても優しいから、誰にでも好かれる事でしょうね。

 それに魔法使いでもあるから、大勢の男性に言い寄られるのは間違いないわね。

 願わくば、優しい男性の所に嫁いでほしいと思うわね…。

 お父様もフローラ姉様を大切に思っているし、酷い家に嫁がせないと信じているわ。

 私も何もしなければ、三年後にはフローラ姉様と同じように婚約者を決められてしまうわ。

 男嫌いの私としては、それは何としても避けなければならない所よね。

 そろそろ、この家を出て行く準備をしなくてはならない時期に来たみたいね…。


 一週間後、お父様とフローラ姉様が帰宅して来たわ。

 皆で出迎えた後、食堂で報告が行われる事になったわ。


「皆喜んでくれ!フローラの婚約者は、アシュタンス伯爵のご長男に決まった!」

「「「フローラ、おめでとう」」」

「「「フローラ姉様、おめでとうございます」」」

「皆さん、ありがとうございます」

 家族からの祝福を受けて、フローラ姉様は笑顔でとても喜んでいるわ。

 フローラ姉様は男爵家の長女とは言え、私と同じく妾の子供になるわ。

 それが、伯爵家の後継ぎである長男と婚約できるとは、私も思っていなかったわ。

 フローラ姉様にしてみれば、望外の喜びでしょうね。


「フローラ、結婚まで五年間ある。伯爵家を支えて行けるように、しっかりと勉強するのだぞ!」

「はい、お父様!」

 家族への報告が終わり、私はフローラ姉様とナディーヌ姉様の三人で、フローラ姉様の部屋へとやって来たわ。

 フローラ姉様は疲れているのでしょうけれど、私達に付き合ってくれた感じよね。

 出来るだけ手短に済ませて、フローラ姉様を休ませてあげなくてはね。


「フローラ姉様、ねっ、どんな人だったのか教えて!」

 私達はテーブルの席に座ると、ナディーヌ姉さんが待ちきれないと、早速フローラ姉様に聞いていたわ。

 私も興味があるのよね。

 フローラ姉様の表情からして、相手は悪い人では無いと思うけれど、もし悪い人だったらどうにかしてあげたいと思うわ。


「そうねぇ、とてもしっかりとした方で、お優しい方でしたよ」

「そう、それは良かったね!」

 フローラ姉様は相手の事を思い出したのかしら、少しうっとりとした表情を見せていたわ。

 フローラ姉様も気に入ったみたいなので、特に問題は無さそうね。

 でも一応、私の方でも調べておいた方が良いのかしら?


「それで、伯爵の長男と言う事は、フローラ姉様は正妻なの?」

「いいえ、妾ですよ。流石に男爵家から伯爵家の正妻にはなれませんからね」

「そっかー、でも伯爵家なら贅沢な暮らしが出来るよね!私も伯爵家に嫁げたらいいなー」

「ナディーヌも魔法使いですから、良い所に嫁げますよ!」

「私もそう思います」

「そうだよね!」

 ナディーヌ姉様は正妻の子供だから、良い所に嫁げるとは思うのだけれど、伯爵家は難しそうな気がするわね…。

 ナディーヌ姉様が可愛くないと言っている訳では無いのよ。

 ただ、ナディーヌ姉様が嫁ぐには、正妻じゃないとお父様も納得しないでしょうし、フローラ姉様が言った通り、伯爵家の正妻にはなれないと思うわ。

 でも、お父様なら可愛い娘の為に、頑張っていい嫁ぎ先を見つけて来てくれると思うわ。


「キアラも、心配する事はありませんからね?」

 私が少し考え込んでいると、フローラ姉様が心配して声をかけて来てくれたわ。

「フローラ姉様、私はこの家にいる男の人以外は怖いのです。だから、結婚なんてしたくないです…」

「キアラはまだ子供だから、そう思うのは仕方のない事でしょうね。でも、いつかは結婚しなくてはならない時が来ますし、キアラにも好きにな男の子が出来ると思いますよ」

「はい…」

 フローラ姉様は私を優しく抱きしめながら、そう言ってくれたわ…。

 フローラ姉様の気遣いは嬉しいけれど、私が男を好きになる事なんて絶対にありえないと思うわ。

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