第一話 ブランタジネット男爵家

「ふっざっけんじゃないわよ!」

 私は、枕を思いっきり殴りつけたわ!

 学校の屋上から飛び降りた時に聞こえた声は、神様の声だったんだと思うわ。

 何故かって?

 私が記憶を持ったまま生まれ変わったからよ。

 その事自体、とても感謝しているわ。

 でもね…。

 スマホも電気も自動車も、何もかも無い世界に生まれ変わらせなくても良いじゃない!

 しかも、記憶を持ったままの赤ちゃんプレイは、思い返しただけで羞恥心で死にたくなるわ!

 その上、この世界には、人を襲う危険な魔物がうじゃうじゃいるのよ!

 お陰で、この歳になるまで、村の外には出た事が無いわ!

 楽しみも無く、危険な世界で、どうやって生きて行けばいいのよ!

 考えていたら、またムカついて来たわ!

 もう一度、枕を殴ろうと思った所で、私の部屋にフローラ姉様が入って来たわ。


「キアラ、大声が聞こえてきたのだけれど、どうしたのかしら?」

「フローラ姉様、ごめんなさい。ちょっと嫌な事を思い出しただけなのです…」

「そうでしたか、嫌な事を忘れられるように抱きしめてあげますね」

 フローラ姉様はそう言って、私を優しく抱きしめてくれたわ。

 フローラ姉様に抱きしめられると、本当に嫌な事を忘れてしまい、とても幸せな気持ちになるわ…。

 これよね!私が生前に求めたものは…。


「もう大丈夫かしら?」

「はい、フローラ姉様、ありがとうございます」

「いいのよ。また嫌な事を思いだしたら、私の所に来て頂戴ね。

 それから、もうそろそろ準備が出来ている事だと思いますので、食堂に行きましょう」

 私はフローラ姉様と手を繋いで、一緒に食堂に向かって行ったわ。

 食堂には、既に家族全員がそろっていて、私を温かく迎え入れてくれたわ。


「「「キアラ、お誕生日おめでとう~」」」

「ありがとうございます」

 今日は私の六歳の誕生日で、家族全員で祝ってくれているわ。

 転生する前、誕生日を祝って貰った記憶は無いわ。

 だから、誕生日を祝って貰える事は、涙が出るほど嬉しい事だわ。

 私がフローラ姉様と席につくと、お父様がお祝いの挨拶をしてくれたわ。


「キアラ、六歳の誕生日おめでとう。これからは勉強に、そして魔法も頑張って行くのだぞ!」

「はい、お父様!」

「うむ、では食事を始めるとしよう!」

 テーブルの上に、豪華な食事が運ばれて来たわ。

 うちは貧乏で、普段は質素な食事だから、祝い事の時の食事はとても楽しみなのよね。

 料理長のデュロンも、私の好みに合わせて作ってくれた料理は、甘くてとても美味しいわ。

 貧乏なのに、料理長が居るのはおかしいと思うかも知れないけれど、私の父は王国から男爵位を授けられている貴族なのよ。

 田舎の男爵家なので裕福では無いのだけれど、この世界の平民よりかは、ましな生活を送っていると思うわ。

 私は転生する前も貧乏だったので慣れているし、料理人が居てくれるだけでも、とてもありがたいわね。

 家族全員そろっているので、紹介するわ。


 私のお父様の名前は、ベントラン・テレーズ・フォン・ブランタジネット。

 名前が長すぎて、覚えるのに苦労したわ…。

 年齢は三十歳で、金髪の髪をオールバックにしていて、少し彫りの深い顔は渋い顔つきね。

 毎日、剣の訓練を欠かさないお父様の体は引き締まっていて、全体的に格好いいと思うわ。


 妻は二人いて、正妻がクリスティーヌお母様。

 年齢は二十九歳、金髪のロングヘアがとても美しく、整った顔はとても美人よね。

 貴族のパーティーに出席すれば、他の貴族から羨ましがられるとお父様が自慢しているほどよ。


 もう一人の妻の名はマリエールお母様。

 私を産んだお母様でもあるわ。

 年齢は二十七歳、銀色の髪と紅い瞳が特徴的で、可愛らしい顔をした女性よ。

 この銀色の髪と紅い瞳を持つ人には、魔法使いの素質がある人が多くて、マリエールお母様も当然魔法使いだわ。

 この世界には魔法があるのよね…。

 その分、科学技術は全くと言って進歩していないのだけれど、それだけ魔法が便利だと言う証拠よね。

 私はまだ魔法が使えるかどうか分からないのだけれど、六歳の誕生日を機に魔法が使えるかの判断をして貰う事になっているわ。

 私も魔法使いに成れる事を、願うばかりだわ。


 長男の名前はフレデリック、十二歳。

 クリスティーヌお母様が産んだ子供で、将来はお父様の後を継ぐ事になっているわ。

 フレデリック兄様の顔はお父様によく似ているのだけれど、剣術が苦手で体つきはやや細いわ。

 その代わり学問の方は優秀で、お父様は安心して後を任せられると言っているわ。


 次男の名前はカルロス、十一歳。

 マリエールお母様が産んだ子供で、髪の色はお父様と同じ金髪だけれど、顔つきはマリエールお母様に似ていて可愛らしいわ。

 だけど、魔法の才能は受け継がれなかったみたいで、本人もかなり気にしているから、カルロス兄様の前で魔法の話は禁句よ。


 三男の名前はリュファス、十歳。

 クリスティーヌお母様が産んだ子供で、クリスティーヌお母様似の美形よ。

 将来、悪い女性に言い寄られないかと、皆心配しているわ。


 長女の名前はフローラ、九歳。

 マリエールお母様が産んだ子供で、お母様譲りの銀色の髪と紅い瞳を持っていて、フローラ姉様も魔法を使う事が出来るわ。

 先程、私を抱きしめてくれたように、とても優しい姉様で、毎日私を可愛がってくれているわ。

 フローラ姉様とは、ずっと一緒にいたいと思うのだけれど、そういう訳にはいかないわよね…。


 次女の名前はナディーヌ、八歳。

 クリスティーヌお母様が産んだ子供で、目がクリッとしていて黙っていればとても可愛いと思うわ。

 でも、とても元気で活発な性格なので、落ち着きなさいとクリスティーヌお母様から怒られているわ。

 結婚相手を探すのに苦労しそうだと言う話を、聞いた事もあるわ…。

 ナディーヌ姉様は可愛らしいので、私は心配していないのだけれどね。


 三女が私、キアラ、六歳。

 マリエールお母様に産んで貰い、マリエールお母様とフローラ姉様と同じ、銀色の髪と紅い瞳を持っているわ。

 だから、私も魔法が使える筈よ!

 明日、マリエールお母様から魔法を教えて貰らえる予定になっているのだけれど、魔法が使えなかったらショックよね…。

 魔法があるせいで、医療技術も進んでいないわ。

 魔法を使えないと、将来病気や怪我をした時に非常に困る事になるわ。


 使用人は七人居て、執事が、ジョセフとその息子のリック。

 メイドは、ジョセフの妻マリデとクラルとグレース。

 料理人は、料理長のデュロンと妻のリドで、メイドのクラルとグレースは二人の娘よ。

 皆家族同様に、温かく接してくれるわ。


 神様に文句を言ってしまったけれど、こんな幸せな家庭に転生させてくれた事には感謝をしているわ。

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