第二話 キアラは魔法使い
「キアラ、起きて頂戴」
幸せな誕生日が終わった翌朝、私はフローラ姉様の優しい声で目を覚ましたわ。
「フローラ姉様、おはようございます」
「キアラ、おはよう。今日から魔法を一緒に頑張りましょうね」
「はい、フローラ姉様」
ベッドから起きて着替え、フローラ姉様に髪をセットして貰い、フローラ姉様と食堂に行って家族全員で朝食を頂いたわ。
午前中はお勉強の時間だけれど、既にこの世界の文字の読み書きは完璧に覚えたし、計算は元々できるので問題無いわ。
なので、午前中は礼儀作法を習得する時間に当てられているわ。
これが思いのほか大変で、かなり苦労をしているわ…。
転生する前の家庭があれだったし、普通の高校生に礼儀作法を完璧に出来る子なんて、いないと思うわ。
でも、メイドのクラルが丁寧に教えてくれるので、私も頑張って覚えないといけないわ。
午後は、マリエールお母様とフローラ姉様と一緒に庭に出て、始めて魔法を使ってみる事になったわ。
「キアラ、今日は無属性魔法を唱えて貰うわよ」
「はい、マリエールお母様!」
最初に、マリエールお母様がお手本を見せてくれたわ。
「我が魔力を力に変えて、敵を打ち倒せ、インパクト」
マリエールお母様が右手を斜め上に差し出して呪文を唱えると、右手から青白い光が出て上空に飛んで行って消えたわ。
魔法を見るのはこれが初めての事では無いのだけれど、優しいマリエールお母様が攻撃魔法を使ったのを見るのは初めてだったわ。
魔法使いなのですから攻撃魔法を使えて当然なのでしょうけれど、マリエールお母様の優しいイメージに似合わないわね。
「これが初歩の魔法よ。キアラも同じ様に唱えて見なさい」
「はい、分かりました」
ちょっと…いいえ、かなり緊張して来たわ。
魔法が使えなかったらどうしよう、と言う不安が込み上げて来るわね。
危険な魔物がいるこの世界で、身を守る手段と言えば魔法しかないわ。
お父様やお兄様達は、剣術で体を鍛えて魔物に対抗しているわ。
でも、私は女の子だし、体を鍛えた所で魔物に勝てる筈も無いわ。
私も魔法が使えますよにと願いつつ、呪文を唱えて見たわ。
「我が魔力を力に変えて、敵を打ち倒せ、インパクト!」
私の手からも青白い光が出て上空に飛んで行ってくれたわ!
「「キアラ、おめでとう!」」
マリエールお母様とフローラ姉様が私を抱きしめ、魔法が使えた事を自分の事のように喜んでくれたわ。
私も二人の温もりに包まれながら、喜びを噛み締めていたわ。
「キアラ、後はお部屋でお話ししましょう」
マリエールお母様はそう言って、私とフローラ姉様を連れて自室に戻って行ったわ。
テーブルの席に三人で座ると、テーブルの上には数冊の魔法書が置かれていたわ。
マリエールお母様は一冊の魔法書を手に取って開き、それを読みながら私に魔法の説明をしてくれたわ。
「魔法の属性の事を話しますね。
私達が使える属性は十種類、無属性魔法、火属性魔法、水属性魔法、風属性魔法、地属性魔法、神聖魔法、召喚魔法、死霊術魔法、光属性魔法、闇属性魔法です。
この中で、光属性魔法と闇属性魔法の魔法書は出回っていませんので、覚える事が出来ません。
そして、残る八種類の内、無属性魔法は数に含まれず、魔法使いなら誰でも使用可能です。
無属性魔法を除く七種類の内、人が覚える事が出来るのは二種類までとなっています。
キアラには、七種類の内から自分に合っていると思う二種類を選んで貰う事になります。
ですが、死霊術魔法だけは人々から忌み嫌われますので、選ばない事を願います。
キアラは、それぞれの魔法書を読んで、ゆっくりと決めていいですからね」
「はい、分かりました」
私は魔法書を手に取り、フローラ姉様に聞きながら一冊ずつ読んでいったわ。
全部の属性が使えないのはケチだと思うけれど、逆に二種類しか使えなくて良かったとも思うわ。
だって、全部の属性が使えるのであれば、この魔法書に載っている呪文を全部覚えないといけなくなるのよ!
そんなの無理に決まってるわ!
だから、二種類で丁度いいと神様が決めたんだと思いたいわね。
さて、どれを選ぶのかというと、一個は神聖魔法と決まっているのだけれど、もう一個はかなり迷っているわ。
神聖魔法は、病気や怪我の治療に加えて、身を守る魔法が中心となっているわ。
マリエールお母様とフローラ姉様も神聖魔法を覚えていて、私が幼い頃に病気をした際には、すぐにマリエールお母様が魔法で治療してくれたわ。
あっという間に元気になったので、とても驚いた事をよく覚えているわ。
私とフローラ姉様も、いずれこの家を出て行く事になるわ。
病気や怪我から自分の身を守るためにも、神聖魔法は欠かせないわね。
もう一個の属性だけれど、候補は水属性魔法と風属性魔法ね。
マリエールお母様は水属性魔法が使えて、飲み水やお風呂の水を魔法で入れているわ。
安全で綺麗な水が出せるのは、かなり便利よね。
フローラ姉様は風属性魔法が使えて、私も一度だけ空に連れて行って貰った事があるわ。
あまり高く飛ぶと危ないからと、十メートルほどしか上がらなかったけれど、それでも空を飛べるのはとても魅力的に感じたわ。
ただし、空を飛べば、空を飛ぶ魔物に襲われる危険があるのよね…。
フローラ姉様も危険だから、すぐ近くを飛ぶくらいの事しか出来ないと嘆いていたわ。
私が風属性魔法を覚えて空を飛べるようになったとしても、移動手段としては使えないでしょうね。
魔法書に目を通していて、一つ気になった魔法書があったのでフローラ姉様に尋ねて見たわ。
「フローラ姉様、召喚魔法って少し変わってますね?」
「そうね。魔物を使役して戦わせる魔法ですからね。
使役した魔物を召喚している間は、魔力がずっと消費されますから、余程魔力が多い人でない限り使いこなせないと書かれていますね」
召喚と言うくらいだから、ゲームで見たゴーレムを召喚して戦わせるのかと思ったのだけれど、自分で捕まえた魔物しか召喚出来ないのよね。
しかも、捕まえる為には、自分ひとりで戦って弱らせてから捕まえないといけないのよ。
確か、そう言うゲームがあるのを、男の子達が話しているのを聞いた事がある気がするわ。
魔物と戦えない私には、関係無い魔法よね。
焦って決める必要はないみたいだし、マリエールお母様とフローラ姉様によく相談してから、ゆっくりと決める事にしたわ。
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