第三話 魔法使いの可能性
私が魔法を使えた翌日から、本格的に魔法の訓練を行う事になったわ。
一つは神聖魔法に決めて、呪文を一つずつ覚えていっているわ。
もう一つの属性はまだ決めて無くて、神聖魔法の呪文を全部覚えた頃に決めようと思っているわ。
決めるに当たっては、私が将来何をやるのかが、大きく関わって来るわよね…。
私は男爵家の三女で魔法が使えるわ。
魔法が使えたことをお父様に報告すると、結婚先に困らないと、とても喜んでいたわ。
魔法使いの女性は、どこの貴族も欲しがるものよ。
だけど、お父様には悪いけれど、私は結婚する気が全く無いわ!
なぜなら、私は男が大嫌いだからよ!
お父様やお兄様達は別だけれど、転生して来た理由があれだからよ。
お父様はお優しいから、私が結婚したくないと言えば、無理に結婚させようとはしないはずだわ。
と言う事で、結婚以外で生活していく道を考えないといけないわね。
私が進む道は、この家を出て独り立ちする事よね。
冒険者は…無理!
魔物と戦うとか、ごめんだわ。
運動が苦手と言う事では無いのだけれど、運動と戦闘は違うと思うわ。
私は魔法使いだから、直接魔物と戦う事は無いのでしょうけれど、それでも森の中に入って行って魔物と戦い、野宿とかしなくてはならないのよね?
サバイバル生活とか、無理に決まっているわ!
商売をするのが無難だとは思うけれど、バイトとかやった事無いのよね…。
簿記は覚えているから、帳簿を付けるのは出来ると思うわ。
料理は、この世界に来てから一度もやっていないけれど、多分出来るはずよ。
料理人として、何処かのお店で働かせて貰う事も出来るかもしれないわね?
でもそこで、女だからとウェイトレスとかやらされたら絶対に嫌だし、間違いなくそのお店を辞めるわね!
男嫌いの私は、自分でお店を持つしか方法は無さそうね…。
「お嬢様方、ご休憩なさいませんか?」
私とフローラ姉様が魔法の訓練を行っていると、メイドのグレースが休憩する様にと声をかけてくれたわ。
集中していて気が付かなかったけれど、結構時間が経っていたのね。
訓練を一時中断し、私とフローラ姉様はテラスにあるテーブルに向かって行ったわ。
テーブルの席にはナディーヌ姉様が座っていて、先に紅茶を頂いていたわ。
私とフローラ姉様も席につき、グレースが淹れてくれた紅茶を頂く事にしたわ。
美味しい紅茶を飲み、クッキーを口に入れると幸せな味がして来るわ…。
娯楽が少ない世界だけれど、貴族の家に生まれて、優雅に午後の紅茶を頂けるのは贅沢だと思うわ。
「二人共、魔法が使えて羨ましい!」
「ごめんなさい、ナディーヌにも魔法が使える様に教えられたらいいのだけど…」
「フローラ姉さんが謝る事は無いの!ただ私に才能が無いだけなのだから…」
ナディーヌ姉様が頬杖を突きながら、少し寂しそうにそう言ったわ。
私が魔法を使えなかったら同じ事を思うでしょうし、ナディーヌ姉様が可哀想だと思ったわ。
だけど、どうして魔法が使える人と使えない人がいるのかしら?
生まれ持った才能と言われれば、その通りなのでしょうけれど、なんだか納得いかないわね。
仮に、私が魔法を使えなかったとしたら、どんな事をしてでも魔法を使えるようになろうと努力したはずだわ。
ナディーヌ姉様の為にも、考えて見ないといけないわね…。
魔法書に、魔力を増やすには毎日魔法を使って、自分の中にある魔力を消費しないといけないと書かれていたわ。
魔法を使えない人は、魔力を消費出来ないから魔力が増えないと言う事よね。
ナディーヌ姉様には、全く魔力が無いのかしら?
そんな事は無いわよね?
どうにかして、ナディーヌ姉様の魔力を消費させる事が出来れば、魔力が増えて行って魔法が使えるようになるのではないかしら?
魔法書の中に、他人の魔力を吸収するような魔法は書かれていなかったわ。
闇属性魔法の中にはありそうな気配がするけれど、魔法書は無いのよね。
他に、魔力を消費させるような物は…あったわ!
「フローラ姉様は、毎日明かりを点ける魔導具に魔力を補充していますよね?」
「えぇ、魔法が使えるようになってからずっとやっていますよ。キアラもやってくれるのですか?」
「はい、それは勿論やらせて頂きますが、それをナディーヌ姉様にも少しやって貰えれば、魔力を使う事になって魔力が増えるのでは無いでしょうか?」
「それだわ!」
ナディーヌ姉様は手をポンと叩いて、私の提案を喜んで受け入れていくれたわ。
「それは危険です。魔力の少ないナディーヌがやると、間違いなく気絶してしまいますよ」
フローラ姉様は否定的な意見ね。
私も今まで、明かりを点ける魔導具の上の方にある、魔力を補充する箇所には決して触れない様にと言い付けられていたわ。
普通の人が触れれば気絶してしまうと、教えられていたわ。
つまりそれは、普通の人でも魔力を持っていて、魔道具に魔力を吸われたせいで気絶してしまうと言う事よね。
気絶するだけで命の危険が無いのであれば、ナディーヌ姉様の魔力を増やす事が出来るはずよ。
「私も危険があると思います。ですけど、フローラ姉様と私がナディーヌ姉様を見守っていれば大事には至らないのではないでしょうか?」
「そうかも知れませんが…」
「魔法使いに成れるのであれば、ちょっと気絶するくらい我慢するからね!いいでしょ!」
「だけどね…」
ナディーヌ姉様は必死にフローラ姉様を説得し、フローラ姉様も勝手に触れないと言う条件付きで許可してくれたわ。
ナディーヌ姉様のお部屋に行き、フローラ姉様と私が見守る中、ナディーヌ姉様が明かりを点ける魔導具に触れたわ。
ナディーヌ姉様は、すぐに力が抜けた様に倒れてしまったわ。
フローラ姉様と私で支えていたので大事には至らなかったけれど、ちょっと危険な事をさせてしまったと後悔したわ…。
二人で気絶したナディーヌ姉様をベッドに寝かせると、フローラ姉様はナディーヌ姉様の手を握って心配そうな表情を浮かべていたわ。
「フローラ姉様、ごめんなさい」
「いいのよ、私も許可した事ですし、これでナディーヌが魔法を使えるようになればとても嬉しいですからね」
「はい、私もナディーヌ姉様が目覚めるまでご一緒します」
私もナディーヌ姉様の手を握り、何事も無く目覚めてくれる事を必死に願ったわ。
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