第四話 ナディーヌ姉様も魔法使い

 ナディーヌ姉様が気絶してから一時間後、ナディーヌ姉様は何事も無かったかのように元気に起き上がってくれたわ。

 私とフローラ姉様は一安心し、念の為にとフローラ姉様がナディーヌ姉様に治癒魔法をかけたわ。

 ナディーヌ姉様の体調に問題は無かったので、それから毎日行っていったわ。

 そして十日後、ナディーヌ姉様が明かりを点ける魔導具に触れても気絶しなくなったので、魔法を使えるか試して貰ったわ。


「出来た!出来たよね!」

「はい、ナディーヌ、おめでとう!」

「ナディーヌ姉様、おめでとうございます!」

 ナディーヌ姉様が無事に魔法を使う事が出来たので、三人で抱きしめ合って喜んだわ。

 ナディーヌ姉様は嬉し涙を浮かべているし、フローラ姉様と私もつられて涙を流したわ。

 それだけ、魔法使いに成れたと言う事は喜ばしい事なのよ。

 散々喜び合った後、フローラ姉様が真剣な表情になって小声で話しかけて来たわ。


「この事は絶対誰にも話してはいけませんよ!いいですね!」

「勿論分かっているよ!」

「はい!」

 こんな簡単な事で、誰でも魔法を使えるようになるのであれば、皆魔法使いに成りたいと思うはずだわ。

 そして、この情報を渡せと脅して来る者も現れるわね。

 決して知られてはいけないし、私もフローラ姉様に同意したわ。


「ナディーヌが魔法使いに成った事は隠せないので、家族には私達の練習を見ていたら使えるようになったと説明するのですよ」

「うん、分かったよ!」

 ナディーヌ姉様が魔法を使えたことは、家族が集まる夕食の時に発表したわ。

 最初は皆驚いていたのだけれど、すぐにナディーヌ姉様を褒めて祝福していたわ。

 お父様は特に喜んでいて、ナディーヌ姉様の結婚相手を選びなおさないといけないと張り切っているわ。

 フローラ姉様とナディーヌ姉様には、まだ婚約者は決まっていないのだけれど、ある程度の目星は付けていたみたいね。

 それを今からまた選びなおすのは大変でしょうけれど、ナディーヌ姉様の為にもお父様には頑張って貰い、良い人を選んで貰いたいと思うわ。


 翌日からは三人で魔法の訓練をする事になり、ナディーヌ姉様は一人ぼっちにならなくて済むと、とても喜んでいるわね。

 フローラ姉様と私も、勿論嬉しい事だと喜んでいるわ。

 仲の良い三姉妹ですから、一人だけ魔法が使えない状態はとても可愛そうだと思っていたわ。

 それが無くなり、これからもずっと仲の良い三姉妹で居続けていたいと思うわね。


「キアラ、私は火属性魔法と神聖魔法に決めたよ!」

「ナディーヌ姉様によく合っていると思います!」

 ナディーヌ姉様は、迷わず火属性魔法と神聖魔法を覚えたわ。

 火属性魔法は攻撃力に優れ、空を飛べるようになる風属性魔法と並ぶ、人気の高い属性よ。

 ナディーヌ姉様が火属性魔法を使って、魔物を倒すような場面に遭遇するとは思えないけれど、ナディーヌ姉様が納得して選んだのですから良いと思うわ。

 私はと言うと、まだもう一つの属性を決めかねていたわ。

 私は将来この家を出て商売をしようと考えているのだけれど、具体的な案はまだ決まっていないのよね。

 自分の進む先を決め、それに合った属性を選ぼうと考えているわ。


「キアラはまだ決めてないんだよね?」

「はい、まだ迷っています…」

「それなら、キアラは地属性魔法で決まりだね!」

 うっ…。

 ナディーヌ姉様が私が属性を決めていないので、地属性魔法を勧めて来たわ。

 地属性魔法は、魔物を倒す事にも勿論使えるのだけれど、貴族の間では土木作業に用いられるので、意外と人気が高いのよね。

 私は、貴族の嫁に行くつもりはないし、土木作業をしたい訳でもないわ。

 でも、せっかくナディーヌ姉様が進めてくれたのだから、理由を聞いておいた方が良さそうだわ。


「理由?それはね。マリエールお母様が水で、フローラ姉様が風でしょ。私が火を選んだから、キアラが地を選べば全部揃うよね!」

 そ、そんな理由で勧められても、困ってしまうわね…。

 四人が一緒に活動するなら、それもありなんでしょうけれど、そんな事にはならないので、申し訳ないけれどナディーヌ姉様の提案は受け入れられないわね。

 でも、今直ぐにでも決めないと、ナディーヌ姉様が私に地属性魔法を押し付けて来そうだわ…。

 候補は水属性魔法と風属性魔法、それから、気になっている召喚魔法ね。

 あれから召喚魔法を調べて見たのだけれど、魔物だけじゃなく、動物も使役する事が出来るのよね。

 私は戦う事が多分出来ないので、魔物は使役出来ないでしょうけれど、動物なら使役できるはずよ。

 犬を使役すれば番犬として使えるだろうし、馬を使役すれば馬車を引かせる事も出来るわ。

 意外と便利な魔法じゃないかと思えて来ているわ。


「決めました!召喚魔法を覚えようと思います!」

「え~、それって一番使えない魔法じゃなかったの?」

「そうですね。魔力が少ない人なら使えないかも知れないですけれど、キアラは魔力が多いので、上手く使いこなす事が出来るかもしれません。

 キアラには、合っている魔法かも知れませんね」

 勢いで言ってしまったのだけれど、フローラ姉様は良いと言ってくれたわ。

 フローラ姉様に言われると、私もそれで良いのかもと思ってしまうから不思議よね。

 フローラ姉様の言葉には、人をその気にさせる何かがあるんだと思うわ。

 丁度そこに、いつもメイドのリドがエサを与えて可愛がっている黒猫が通りかかったわ。

 私もたまに撫でてあげているから、警戒する事無く近づいて来るわね。

 召喚魔法に決めた事だし、あの黒猫を使役できるか試してみる事にしたわ。

 私はしゃがみ込んで黒猫を撫でながら、契約の呪文を唱えて見たわ。


「力ある者よ、我が魔力に呼応し契約を交わせ、エンゲージ」

 黒猫が一瞬輝くと、黒猫と無事に契約できたと思われる繋がりを感じたわ。


『いきなり契約とか、酷いニャ!』

 そして、頭の中に黒猫の声が聞こえて来て、黒猫から怒られてしまったわ…。

『ごめんなさい、貴方と話す事が出来るのね?』

『そう言う契約ニャ!』

 ちょっと驚いてしまったけれど、猫と話せるのはかなり嬉しい事ね。

 使役した動物と話せるのであれば、召喚魔法も悪くないと思ったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る