第七話 お父様へのお願い
お父様とフローラ姉様が帰宅した翌日、私は早速行動に移す事にしたわ。
ぐずぐずしていると、お父様が私の婚約者を見つけて来るかも知れないし、お父様に余計な苦労を掛けたくも無いわ。
朝食を頂いた後、私はすぐにお父様の書斎を訪ねて行ったわ。
お兄様達は午前中剣の訓練をしていて、今書斎にはお父様しかいないわ。
お兄様達が私の邪魔をするとは思えないけれど、念の為にお父様一人の時を狙って来たのよ。
「キアラがここに来るとは珍しい、何か用事かね?」
「はい、お父様にお願があってやって参りました」
「そうかそうか!私に出来る事なら何でもしてあげるから、遠慮なく話して見なさい」
お父様は娘達に甘いわ!激甘よ!
特に末娘の私の言う事なら、何でも聞いてくれると思うわ。
お父様の優しさに付け込むのは少し気が引けるのだけれど、いずれ言わなければならない事なのよ。
「お父様、私は家族以外の男の人が苦手で、結婚はしたくありません!」
「そうか…」
私がはっきりと伝えると、お父様は少し考え込んでしまったわ。
幾らお父様が甘いと言っても、これは受け入れられないのかも知れないわね。
でも、私が結婚したくないのは本当の事だし、強制されるようだったら家を出て行く覚悟はあるわ。
「よし、キアラの気が済むまでこの家に居ていいぞ!と、言いたい所だが、フレデリックに家督を譲り渡すまでだ」
「お父様、ありがとうございます!でも、私は将来この家を出て独り立ちをし、商売を始めたいと考えています」
「キアラが商売をか…」
お父様は、再び考え込んでしまったわ…。
七歳という年齢で、将来の話をしたのは不味かったかしら?
でも、今から色々と商売の勉強を始めないといけないし、隠しておくことは出来ないのよね。
ただの高校生だった私は、商売の事なんて何も知らないわ。
何歳で独立するかは決めていないけれど、勉強するなら早い方が良いに決まっているわよね。
勉強するなら、お父様に協力して貰う必要もあるのよね。
だから、どうしてもお父様に認めて貰う必要があるわ。
「商売は簡単なものではない。キアラはまだ幼いのだし、勉強や礼儀作法を習得してから商売の事を考えた方が良い」
「あら、お父様は聞いていらっしゃいませんか?私は勉強と礼儀作法は完璧に習得致しました」
「むっ、そう言えば、グレースがキアラに教える事は無くなりましたと報告に来ていたな…」
「そうでしょう」
「だが、キアラが商売を始めるにはまだ幼過ぎる!」
「はい、私もそう思っています。お父様、もしよろしければ、午後から兄様達と一緒にここで勉強をさせては頂けないでしょうか?」
「ふむ、よろしい。キアラはフレデリック達と一緒に学び、私がキアラに商売が出来ると判断出来た時に許可を出す事にしよう」
「はい、お父様、ありがとうございます!」
私はお父様に抱き付いて感謝すると、お父様は私の頭を優しく撫で続けてくれたわ。
その日の午後から、お兄様達と一緒に勉強をする事になったわ。
「フレデリック兄様、カルロス兄様、リュファス兄様、今日から一緒に学ばせて貰いますので、よろしくお願いします」
「キアラがなぜ?」
兄様達は、私がいる事を不思議に思い、お父様から事情を聞いていたわ。
「キアラは素直で可愛いから、騙されるんじゃないかな?」
「商売するのは大変だと言うし、素直に結婚した方が良いと思うな」
「まだ急ぐような年齢でもないし、ゆっくりと考えた方が良いんじゃない?」
兄様達は、私が商売をするのには反対の様ね。
私も兄様達の立場だったら、きっと反対したと思うわ。
だから、兄様達にもしっかりと説明をして納得して貰わないといけないわね。
「私は男の人が怖いのです。だから、結婚もしたくないのです」
「なるほど、キアラはフローラとナディーヌに可愛がられて育ったから、男が嫌いになるのは仕方ないのかな」
「僕達は大丈夫なんだろ?そのうち慣れると思うんだけどな」
「男が怖いってのは分からなくもないけれど、結婚はした方が良いんじゃない?」
「思う所はあるだろうが、商売の許可を出すかはここでの勉強次第だ。お前達もそのつもりでキアラを見守って貰いたい」
「「「分かりました」」」
お父様が纏めてくれて、兄様達も納得してくれたわ。
そして、兄様達と一緒に領地経営の勉強をする事となったわ。
「これは今月の領内での収入だ」
お父様が収入の書かれた紙を机の引き出しから取り出し、私達に見せてくれたわ。
しかし、大雑把過ぎて、全体を把握するのが大変ね…。
「お父様、今月使った分のお金を纏めた物はありませんか?」
「ある、ちょっと待て…これだ」
お父様は、机の引き出しから探し出して、私達の前に紙束を出してくれたわ。
こちらも纏められてなくて、把握できないわね。
そこで私はお父様から紙とペンを借りて、日付順に仕訳けをして行ったわ。
「こうすると、見やすくは無いでしょうか?」
「うむ、とても分かりやすくなっているな。偉いぞキアラ!」
「凄い、キアラが頭が良いのは知っていたけれど、ここまでとは思っていなかった!」
「へぇ、これだと僕でも見やすくて分かりやすいよ!」
「凄いけど、キアラは何処でこんな事を覚えたんだ?」
お父様やお兄様達に褒められて嬉しかったけれど、フレデリック兄様には怪しい目で見られてしまったわ。
いいえ、怪しんでいると言うより、悔しがっていると言った方が良いわね。
三女の私がお父様に褒められてしまって、長男の面目を潰してしまったのですからね…。
フレデリック兄様には悪い事をしたとは思うけれど、私が商売を始めるにはお父様に認められる必要があるのよ。
でも、フレデリック兄様の面目を回復させてあげなくてはならないわね。
「えーっと、私は兄様達より頭が悪いので、頭の中で整理できませんでした。
ですので、私が理解しやすい様にまとめただけです…」
「そっか、そうだよな!」
ふぅ、何とかフレデリック兄様の機嫌が元に戻ってくれて助かったわ。
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