ラッキー7の結末は

七倉イルカ

第1話 ラッキー7の結末は……


 「ラッキー7の始まりは、知っているのか?」

 俺は幸七に聞いた。


 「当然だよ。

 昔、メジャーリーグのある試合で起こった出来事がきっかけだよ。

 7回の攻撃でバッターが、高いフライを打ち上げちまったんだ。

 アウトだと、みんなが思った瞬間、このボールが風に乗って、なんとホームランになったんだよ。

 そこから、試合の流れが変わって、一気に逆転勝ち。

 その試合以外にも、ベイスボールには、7回からの逆転劇が多いから、ラッキー7と言われるようになったんだ」

 幸七が自慢そうに答える。

 

 「それって変だよな。

 相手チームにしてみれば、逆転負けになっているんだから、アンラッキー7じゃん」

 「それは、それだけど……」

 俺が指摘すると、幸七は困ったような顔になった。


 「で、でもさ、7は縁起の良い数字なんだぜ。

 カトリック教には、七つの徳と言うのがあるんだ。

 知恵、勇気、節制、正義、信仰、希望、愛。

 この七つ。

 これを七元徳と言うんだ」

 幸七は、気を取り直して反論してきた。


 「カトリック教には、七つの罪ってのもあるよな。

 傲慢、強欲、嫉妬、怒り、色欲、暴食、怠惰。

 これを七つの大罪と言って、戒めているはずだろ」

 俺の言葉に、また幸七は困ったような顔になってしまった。


 「……そうだ!

 日本にも、七福神があるだろ」

 「元々は、三福神や五福神と言って、時代によって神様の人数が変わるらしいぞ」

 

 「七転八起はどうだ!」

 「その場合、転んだ七回の数は縁起が悪くて、起きた八回の数の方が、縁起が良いってことだろ」


 「……ぬう」

 幸七は、難しい顔で考え込んだ。


 子供のころから付き合いのある幸七は、とにかく運のいい男だった。

 金運、勝負運、仕事運、恋愛運、健康運……。

 周りからすれば、うらやみ、暗い嫉妬を持つほどの強運を持っている。


 本人も強運を自覚していて、これは、幸七と言う名前の御利益だと公言している。

 コンパでの自己紹介では、福田ラッキー7ですと恥ずかしくもなく言う男だ。


 しかし、その自己紹介が、なぜか美人にウケる。

 今回、「福田ラッキー7」で笑いこけ、幸七と付き合うことになった美女の奈々子ちゃんは、なんと大会社の社長令嬢であった。

 逆玉の輿である。

 結婚すれば、数年後には、社長の椅子が待っている。


 しかし、そのためには、婿養子になることが条件であった。

 奈々子ちゃんは、一人娘なのだ。


 奈々子ちゃんの姓は杏。

 「あんず」ではなく、「あん」と読む。

 幸七は、今の福田姓から、杏姓に変わり、杏幸七からの杏ラッキー7、そしてアンラッキー7に繋がることを恐れているのだ。


 「なあ、幸七。

 ラッキー7なんて、迷信だと分かっただろ。

 お前の、今までの成功は、運じゃなくて、努力と実力の結果なんだ。

 だから、取ってつけたような、アンラッキー7なんて気にすんな」


 「……うん。そうだよな。

 ありがとう。

 奈々子と結婚して、杏姓になり、会社を継ぐよ」

 幸七は吹っ切れたのか、嬉しそうな顔になった。


 「がんばれよ」

 俺も嬉しい。

 この様子じゃ、奈々子の父の会社は、莫大な負債を抱えて倒産寸前、奈々子は、とんでもない浪費家の放蕩娘だってことは、知らないらしい。


 名前で得てきた幸運だ。

 この先は、アンラッキー7で七転八倒し、俺の暗い嫉妬を晴らしてくれ……。

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