アンラッキーセブン

安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売!

「ふぇぇぇ〜っ!」


 床にペタリと座り込み、幼子おさなごよろしくベソベソ泣いている少年を眺めた男達は、互いに困惑の視線を交わしあった。


 それに構わず少年は泣き叫ぶ。


「ついてない〜! 今日、本っ当についてない〜!」


 ──そりゃそうだろう。今日が『ついてる日』だったら、お前は殺し屋組織の誘拐になんてあってねぇよ。


「お気に入りのボールペン割れるし! 限定発売のプリンは目の前で売り切れるし!! 車に泥跳ねられたし、黒猫に横切られるし、直した寝癖再発してるし、財布スられたっ!!」


 ワァワァと情けなく叫ぶ少年に、アサルトライフルで武装した男達は生温かい視線を向ける。


 ガランとした倉庫に、完全武装に身を包んだ殺し屋集団が50人以上。この場所と人員と装備が全て、この少年を殺すために用意されたものだということがもはや滑稽にさえ思えてくる。


 ──こいつが本当に『アンラッキーセブン』なんて呼ばれてる『最凶の壊し屋』なのか? 人違いじゃなくて?


 あまりにも簡単に拉致され、あまりにも情けなくわめき続ける少年に、殺し屋達はターゲットを間違えたかと自分達の仕事を疑い始める。


 だがふと、少年の喚き声が止まった。


「ん? ボールペンが割れて、プリンは売り切れ。泥はね、黒猫、寝癖、財布」


 ピタリと涙を止めた少年は指折り数えながら己の不幸を列挙する。むっつある事象に対して右手の指全てと左の親指を折りたたんだ少年は、ユラリと顔を上げると左手の人差し指を折り込んだ。



 そして、いびつに笑う。


 まるで少年の中身が悪魔にでもすり替わったかのように。


 見た者の魂を引き千切るかのような、場の重力を捻じ曲げるかのような、そんな笑い方で、少年はわらった。


「残念でした。『アンラッキーセブン』が成立しちゃった」


 思わず場にいた男達はアサルトライフルの銃口を少年に突き付ける。だが少年が口元にたたえた笑みは消えない。


「さて。今回の俺の不幸アンラッキーから逃げ切れる人間は、いるのかな?」


 少年が呟いた瞬間、世界が割れるような音が轟いた。




  ※  ※  ※




「あーあー……。今回も全滅させちゃった」


 パタパタと服のほこりを払いながら少年は立ち上がる。


 周囲は一面瓦礫がれきの山になっていた。倒壊した倉庫の瓦礫に潰され、あるいは暴発したアサルトライフルの被害に遭い、少年を取り囲んでいた殺し屋集団は一人も残らず壊滅してしまっている。


 その光景を確認して、少年は小さく溜め息をついた。


「あーあ、僕ってばついてない……」


『アンラッキーセブン』


 己の身にななつ不幸アンラッキーが降り掛かった後、任意で意図的に『不幸アンラッキー』を発生させることができる異能力。この町で少年が『最凶の壊し屋』と呼ばれるようになった所以ゆえんであり、その二つ名の所以でもある。


「でも僕はこんな能力よりも普通の幸福ラッキーが欲しいんですけどぉ」


 またベソベソと泣きながら、少年はトボトボとその場を後にする。


 その口元に悪魔のような微笑みがたたえられていたことは、少年の周囲を取り巻いた闇だけが見ていた。




【END】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アンラッキーセブン 安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売! @Iyo_Anzaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ