【闇憑き姉妹シリーズⅥ】廃校の大鏡

深川我無

廃校の大鏡

「ねえ知ってる?輪廻ちゃん?」


「なになに教えて車輪カルマちゃん」


「地蔵山の麓に廃校があるでしょ?あそこの階段にある大鏡にね…とっても危険なお化けが映るんだって…」


車輪はいたずらっぽく目を細めた。


うんと可愛い妖しい笑顔。


ちらりと出した舌の先。


二人はさっそく家を出た。



すりガラスの向こうには佇む母の黒い影。


二人はそおっと家を出た。


誰そ彼過ぎた薄闇の町。


曖昧、朦朧、揺蕩う景色。


スキップスキップ・ラン・ラン・ラン♪


「誰そ彼見かけたあの子の背中♪」


「真っ黒けっけの黒い影♪」


「覗き込んでも解らぬ気持ち♪」


「だってお顔も真っ黒け♪」


二人は交互に掛け合い歌う。奇怪で不気味な童歌。


「ここだね!ここだね!輪廻ちゃん!」

「ここだよ!ここだよ!車輪ちゃん!」


二人は手のひら合わせてパチン☆


蔦に飲まれた門の前、錆びた重たい鉄の門。二人はせーので呼びける。


「御免下さい。通りゃんせー」

「御免下さい。通りゃんせー」


キシキシ軋んで門が開く。だーれも触れやしないのに…


ジャリジャリ校舎を横切って鍵の壊れた古い窓。こっそり開けてニンマリ笑顔。


校舎の中は闇が立ち込めひんやり寒い。蠢く影が二人を伺う。


ギィギィと音を立てる木造の廊下。

誰もいないはずなのに、埃に残る裸足の足跡。ヒタヒタ。


埃を蹴って双子は走る。足跡だってお構いなし!


だって目当ては大鏡!


ちらりと輪廻が右手に目をやる。時刻は六時五四分。


階段から不吉な気配。刻一刻と濃くなる闇に双子はゾクッと身震いした。


「とっても危険よ輪廻ちゃん」


「ずっごく危険ね車輪ちゃん」


「だけど私達は闇憑き姉妹」


「行くのはいつも暗い方」


くすりと笑って踏み出した。

じっとり重たい夜の闇。

まだまだ時間は深夜に遠い。

それでも在るのは黄泉の闇。


踊り場の壁に掛けられた、長方形の大鏡。

闇に佇む不気味な姿はあの世の景色を映すらしい。


「今だ!」

「今だ!」


二人はせーので鏡の前にぴょんと飛び出す。

それと同時に時計はカチリと七時を告げた。


「鏡よ鏡よ鏡さん」


「あなたは逆さの世界を映す」


「幸には不幸」


「生には死」


「ラッキーセブンは七つの不幸アンラッキーセブン

「ラッキーセブンは七つの不幸アンラッキーセブン


「私に見せてよ逆さの世界」

「私に見せてよ逆さの世界」


どろり…。


鏡の縁から赤黒い血が溢れた。


それは幾筋もの軌跡を描いて鏡面を滴り落ちていく。


鏡に映った双子の姉妹はボロキレを纏い、目が落ち、千切れた腕が筋でぶら下がり、足は骨が剥き出しになり、口から虫が出入りしている。


美しかった髪は禿げ上がり、白い肌は紫色に爛れ、可憐な姿は見る影もない。


姉妹は叫ぶが声が出ない。


驚いて顔を見合わせると、そこには無惨な互いの姿。


なのに二人は不気味に笑う。


二人はお互いの胸ポケットから可愛らしいピンクの手鏡抜き取ると、パカッと開いて鏡に見せる。


合わせ鏡に叫び声。


断末魔の長い声。


二人は同時に、鏡の蓋をパタンと閉じた。


「もう!お化けさんたら失礼しちゃう!」


「ブスな顔見て悲鳴だなんて!」


二人はお腹を押さえて大笑い。


「だけど…」

「だけど…」


「とってもいいモノ捕まえちゃった」

「とってもいいモノ捕まえちゃった」


元通りの奇麗な笑顔。

ご満悦なニコニコ笑顔。

手鏡抱えて二人は帰る。


スキップスキップラン・ラン・ラン♪




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