第3話 運を排すれば、単純に実力の勝るほうが勝つ
フードを被った占い師が消えたと思ったら、気を失っている幼い少女が現れた。
どうやらこの少女が死にそうになっていて、占い師と入れ替わったようだ。
家に送ってやりたいが、その場所を訊くためには彼女が起きるのを待つ必要がある。
俺はこの簡易的に設置された占い師の小屋でしばし待つことにした。
「ねえ、7番がハズレって最初から分かっていたの?」
俺の耳元で涼やかな声がした。
振り向くと、スウッと空気から溶け出るように少女が現れた。
純白のワンピースを着た銀髪の少女。彼女は俺の契約精霊、エアである。
そして、彼女と契約している俺は空気の操作型魔導師、ゲス・エストだ。
「箱は触れなければ選択したことにはならない。そして完全に密閉されてはいなかった。だから、空気を各箱の中に潜り込ませ、空気抵抗の有無で玉の所在を確認した」
エアは俺の返答を聞きながら、細長いテーブルを回り込んで気絶している少女に近寄った。
屈んで少女の顔を覗き込みながら、さらに訊く。
「じゃあ、なんで最初に4番を選ばなかったの?」
「空気抵抗で形は分かっても、色までは分からん。とにかく最初は空の箱を選んだ」
「じゃあ、なんで最後に4番がアタリだと分かったの?」
正直、俺は説明が面倒だと思った。
だがエアは俺の契約精霊なので、粗末に扱っていい存在ではない。
仕方なく説明を始める。
「二つある玉のうち、一つは7番の箱に入っていた。もう一つは約一秒間隔で常に八つの箱の中をワープしていた。そして、俺が一つの箱を選択したとき、移動する玉がその中にあれば別の箱に移動するし、その後は選択した箱に移動することもなくなる。つまり、この玉は俺の選択から逃げ回っていることになる」
「なるほど」
淡白な
エアが俺の説明を理解しているか怪しいところだが、構わず続ける。
「逃げるということは、移動する玉がアタリの可能性が高い。一見するとアタリとハズレが同確率に見えるのに本当は確率が違うということは、確率の低いほうがアタリということだ。そうでなければ、あの占い師が魔術を使ったゲームを提案するメリットはないからな」
それを抜きにしても、「7」という数字は幸運を象徴する数字なので、人が選びやすいという心理を突いていることは想像に
ちなみに、あのギャンブルゲームでアタリを引く確率は、
8/9×7/8×6/7×5/6×4/5×3/4×2/3×1/2=1/9
であり、ハズレを引く確率は、
1-1/9=8/9
である。
つまり、約90%の確率でハズレを引くことになるのだ。
それで命を賭けさせるのだから、極悪もいいところだ。
「アタリとハズレが逆の幸運のジョークゲームという可能性は疑わなかったの?」
「客を相手に命を賭けさせるようなゲス野郎がそんなことをするわけないだろう。仮にそうだったとしても問題はなかった。俺は命を賭けるとは言ったが、自分の命を賭けるとは言っていない。俺が賭けたのはあの占い師の命だ。『誰の』と口にするよう言われなかったからな」
「それ、賭けとして成り立たなくない?」
「そんなことはない。勝手に他人の命を賭けることは、自分の命を賭けることよりも遥かに責任が重い。俺の抱える責任の重さを、あの占い師の魔術が俺の命を賭ける重さと同等とみなしたのだ」
そのとき、気絶している少女に目覚めの兆候が見られた。
顔や指がわずかに動き始めている。
エアは立ち上がりながら言った。
「エストもたいがいゲスだと思う」
俺はエアがおかしなことを言うので、フッと笑いをこぼした。
「何を言っているんだ。俺は元からゲスだ」
―おわり―
―――――――――――――――――――――――
【あとがき】
拙作をお読みいただき、誠にありがとうございました。
本作は長編「残念ながら主人公はゲスでした。」の外伝的な位置づけの作品です。
この作風を気に入っていただけましたら、ぜひこちらの長編も読んでみてください!
下品な数字に死の鉄槌を 日和崎よしな @ReiwaNoBonpu
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