アンラッキー7 ―俺と妻との勝負の行方―【KAC20236】
藤井光
俺と妻との勝負の行方
『むかしむかしあるところに、小さな王国がありました。
王国の王様とお妃様の間にはあるとき、かわいい王女様が生まれました。
王様はたいそう喜んで、国中をあげてお祝いすることにしました。
しかしお祝いのパーティが行われているそのとき、お城には大きな雷が落ちました。
そして雷とともに落ちてきた悪魔は王様に向かって言いました。
「その姫は七歳になったとき悪魔の力に目覚め、この王国を滅ぼすだろう。」 』
「何を書いているの?」
パソコンに向かう俺の後ろから、妻の
「小説。『7』をテーマにした小説を書こうと思ってね。」
「ななって、数字の7? ……どれどれ?」
そう言って恵は俺のパソコンをのぞき込む。
「うーん、どっかで見たような話だよね。駄目だよ、これじゃ。」
「なんだよ。」
「私に任せといてよ。もっと面白いの書き上げるから。」
そういうと恵はスマホを立ち上げ、メモツールでなにかをせっせと書き始める。
「ほらできた。今だったら、こういう方が絶対受けるって。」
「ん……」
俺は恵からスマホを受け取り、書かれたメモを読み始める。
『七木奈々は中学生。本が好きな少女だった。
だが常に本に向かい、あまり話したがらない彼女は友達も少なく、休み時間になっても図書室にこもるような、そんな少女だった。
彼女はある日、不運にも交通事故に逢って死亡してしまう。
だが、そこで終わりではなかった。
意識を取り戻した彼女がいたのは、この世ではない剣と魔法の異世界だった。
剣士ナナ・キナナへと転生した彼女はこの世界で次々と仲間を増やし、世界を脅かす魔王と戦っていく。』
「ぶはっ!」
俺は思わず吹き出した。
「なんだよ、これ。」
「いいと思わない?」
「いいか、こういう転生して最強、みたいなのは今じゃ時代遅れなんだよ。そもそも友達が少ないような少女がなんで異世界に行っただけで、仲間を次々増やせるようになるんだよ。それに文学系少女なら、転生したところでいきなり剣士として戦えるはずもないだろ。」
「むう……」
「それに、これ、かなりの長編になるだろ。お前、そこまで書き上げられるのか?」
「言ったわね。だったら勝負しましょうよ。」
「えっ?」
「私とあなた、お互い作品を一話仕上げて小説投稿サイトに載せる。そして、もらえた評価の数で勝負をつける。」
「なるほど、面白いな。」
かくして、俺たちの勝負は始まることになった。
「予約は午後8時。よし、投稿。」
時間帯のハンデがあってはいけない。俺と恵は揃って午後8時に予約投稿することにした。
勝負は24時間。明日の午後8時までにもらえた評価の数。それが俺たちの勝敗を分ける。
――結果から言おう。
散々なものだった。
俺も恵も、閲覧された形跡はあった。だが評価された形跡はない。
揃って表示される☆0の画面を見て、俺たちは互いにため息をついた。
「難しいわね。」
「うん……」
「もう、やめよっか。」
「そうだね……」
俺はパソコンの、恵はスマホの電源を落とす。
幸運の数字であるはずの『7』。だが俺たちにとってそれは、アンラッキーな『7』であったらしかった。
「あーあ。」
恵はスマホをソファへと放り投げ、大きくのびをしてみせる。そしてこちらを向き、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「ねえ。おなか、すかない?」
「さっき晩飯食っただろ。」
「デザート。」
「……あるの?」
恵はにこにこと笑って冷蔵庫を開け、取り出した何かをソファのそばのテーブルに置く。それは『7』の形のろうそくがのった小さなケーキだった。
「どっちが勝ってもお祝いする気だったんだけどね。無駄になっちゃった。」
そう言った恵の顔は少しさみしそうだった。
「無駄じゃないだろ。」
俺はパソコンデスクの引き出しから『7』の形のクッキーを取り出す。小さな『7』がいっぱい詰まった、ケーキ屋で買ってきたクッキーの袋だ。
「俺たち、考えることも似てるな。」
恵は目を丸くし、そして明るく笑い始めた。
そして、俺たちはケーキとクッキーを分け合って食べた。
その日のデザートは少ししょっぱい気がしたが、俺たちは互いに互いを見合わせ、笑い合っていた。
アンラッキー7 ―俺と妻との勝負の行方―【KAC20236】 藤井光 @Fujii_Hikaru
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