主人公は飲料水自販機の〝購入すればもう一本商品を貰える抽選〟に執着し没頭する。
ここで当たりを掴むことで、不遇である自分の人生のバランスシートをプラスに転換できるかのように思いこんでいるらしい。
人間は関連のないものに関係性を求める。
クジ引きが当たることと、人生の転機とは何の関係もない。
しかし人は仮託するのだ。
そして往々にして、偶然と幸運を混同する。
本作でも主人公の語りとともに刻一刻と購入本数が増える。
しかし当たりルーレットの数字の出目は揃わない。
あたかも、主人公の精神の崩壊する過程がその購入本数の数字に表されているように物語は進行する。
抽選装置つきの自販機はおおよそ1%の割合で当たりが出る設定だと聞く。
つまりほぼ100本に1本が当たる計算だ。
しかし主人公はその購入範囲を大きく越えていた。なのにいまだジュースは当たらない。
執着により自らを失い、取り返しのつかない状況まで辿り着いた男の執着と狂気の記録。
巧みに表された怖い話です。
ぜひ御一読ください。