彼は七七七にいる
羊蔵
彼は七七七にいる
俺も七七七に行くはずだった。
小学生のとき、一個上の先輩がいったんだ。
「夜、出てこれるやつにだけ七七七を見せてやる」
俺らは七七七が何なのかとか知らないし気にしなかったな。
エロ本だと信じるヤツもいたし煙草の事だろうというヤツもいた。要するに重要じゃなかった。
体育館の鍵を開けておいて早朝にバスケをする、とかそういう遊びが流行っていたから、その過激なバージョンだと思ったんだ。
俺はその先輩が好きだから行ったんだけどな。
深夜、家を抜け出して先輩の後についていった。
あの人は同じ道を往復したり、鳥居をわざわざ潜ったり、変な道順で俺らを案内した。
やがて見たこともない空き地に着いた。
雑草と錆びた車以外何もない。
ここに七七七があるのって俺らが訊くと、先輩はポケットから車の鍵を取り出して見せた。
俺らは明確にビビった。
さすがに無免許運転はない。
当時の俺らは家抜け出してコンビニ入ってアイス買うだけでも充分ドキドキできるし楽しいはずだった。
俺が代表して先輩にいった。
「七七七って車の事なん?」
先輩は確か「何が七七七だったらしい?」っていったんだった。
なんだか、車に乗りさえすれば先輩が何でも与えてくれるんだって気が俺にはした。七七七が何なのかは知らないけどさ。
見ると、塗装もはげていたような車がピカピカに変わっている。
俺は先輩が好きだったから、もう余裕で着いていく気だった。
でもドアに手をかけたところで泣き声に呼び止められた。
妹だった。抜け出した俺の後を着いてきてたらしい。連れ達は泣き声で大人に見つかるんじゃないかと慌てた。
妹をなだめる俺へ、先輩は肩をすくめて苦笑した。
それから大人みたいに滑らかな動作で車に乗ると、一人で行ってしまった。
先輩はそのまま消えた。
なぜか誰も騒がなかったし話題にもならなかった。
俺も、もう先輩の名前も思い出せない。
あの人は七七七にいるのかな。
彼は七七七にいる 羊蔵 @Yozoberg
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます