逢魔が刻 〜miDnight-DeaD-enD〜

脳幹 まこと

♰絶対の恐怖♰


 深夜。

 これ以上ない位にべろんべろんに酔っぱらってしまった俺は、公園でぼんやりとしていた。

 どこかから声が聞こえる。


「ドゥシスドゥクンドゥスドゥス!」


 いつの間にか、俺の目の前に全身黒ずくめの男がいた。

 それだけなら運動しにきた人かなと思うだけだったのだが、黒いマントをつけ、晴れた中で黒い傘を持っているあたり、普通ではない。

 そいつは傘を構えると闇雲に振り回す。


「バシュバシュバシィィィィン!! ピィィィィィィィ!!(裏声)」


 セルフSEだ。

 やべー人いるなあ、近寄らんでくれ……と思ったのだが、

 そいつは傘を納刀? すると、こんなことを口走る。


「――闇夜に足掻け」


 ぞわりとくる感覚。

 決め台詞? を吐いた彼は一人、ふらふらと動き回る。


「どうやら、この霊園は、黒き神々DoomeD-goDzに好かれているらしいな……」 


 やばい、これはやばい。

 この……設定・・は。


「今宵は瘴気が一層綺麗だ。そうは思わんか――そこの若人よ」


 気付かれてた。泣きたい。

 だんまりを決め込む俺に対して、そいつは満を持して? 自己紹介をする。


「我の名は――♰絶対の恐怖blooD-Death-DreaD♰」


 やめて。

 これ、中学の俺だわ。

 酒のせいなの? これは酒のせいなの?

 震える俺に対して、彼は厳選したイケボ? を披露する。


「心配するな、この霊園全体は我が結界領域の中にある。闇に食われることはあるまい」


 やめて。

 いたい。

 俺は耳を押さえて、立ち上がろうとする。


「待て。何か――来る・・


 キてるのはお前の頭だよ。


「ふっふっふっ、流石ですねェ、♰絶対の恐怖♰。冥罪の闇の守護者Deus-Dux-guarDianと呼ばれるだけのことはありますよォ……」


「貴様――矛盾する深淵paraDox-zeroか。今宵こそは永劫の闇へと滅してくれる!」


 一人二役だ。

 こいつらは宿敵関係で、結局決着がつくことなく高校生になってしまった。

 飽きてはリセットし、新しく作ってはまた飽きる。

 こんなことを繰り返しているうちに、設定ノートは4冊目に突入し、すっかりクラスから爪はじきの陰キャになってしまった……


 嫌な思い出を振り返っているうちに、勝負も佳境に差し掛かったようだ。

 二人ひとりの最大奥義が繰り出される。


「♰破闇冥天双剣Destruction-raiD-blaDe♰!!」

宿・業DeciDe-karma!!」


「――その衝突はこの美しき地球を一瞬だけどす黒く染め上げた……」


 セルフナレーション。

 いたみとえぐみがすごい三分間スピーチを滔々とうとうと垂らした彼は、うっとりとした表情で佇んでいた。


 そろそろ帰るか。

 ただ、文句の一つくらいは言ってもいいよな?


「――おい」

「どうした、若人。全知の我に何を問う?」


「そんな学生生活送ってるから、てめーはでも童貞Doteiなんだよぉぉぉぉ!!」


「え、まじで?」

「うん」


 業が深えーぜ!



「知らなかったぁぁ……」


 それからの彼は秒でへし折れた。

 すすり泣く声とともに、♰絶対の恐怖♰の体が崩れてゆく。


「これが……これこそが……逢魔が刻~miDnight-DeaD-enD~……」


 そう遺して、やつは完全に消えた。


 すっかり酔いは覚めてしまった。

 まったく、本当にくだらない黒歴史だったな。



 そう思いつつも、俺は現在連載中の人気作【虚空を告げるもの―Vanish WiXY Zenith―】の構想を練り始める。

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