追いかけっこ
浅川さん
追いかけっこ
僕は渋々玄関のドアを開けて外に出た。
深夜2時の世界にドアを閉める音が響く。
僕は空腹だった。
夕方から作業を始めて気が付けばこの時間。冷蔵庫は空っぽ。
だから近所のコンビニが今日の目的地。徒歩6分程度の散歩を楽しむことになってしまった。
だが、空腹は最高のスパイスともいう。僕は何を食べようか考えながら歩き始めた。
少し歩くと、違和感を感じる。誰かに見られているような感覚。
僕はさりげなく振り向いて背後を確認した。
人が立っていた。
距離にして15mほど離れているだろうか。スーツを着ているように見えるその人は、ヨタヨタと奇妙な足取りでこちらに向かって歩いてきているようだ。
ゾッとした。ただの酔っぱらいだと思うのだが、予期しない場面で人と遭遇するのは単純に怖い。僕はあまり不自然にならないように前を向き、歩く速度を速めた。
僕が歩く速度を速めると、後ろからも足音がすることに気づいた。気のせいか少しずつ早く、音が大きくなってきている気がする。
僕は絶望的な気持ちになりながら歩みを速めた。
しかし、不幸にも僕の目の前には信号が立ちふさがる。この信号は大通りに面している為、切り替わるのに2分ほど時間がかかる滅茶苦茶長い信号だった。
だが、ここを超えなければコンビニには行けない。
僕は本当に空腹だったし、何ならトイレにも行きたくなってきた。このあたりに公衆トイレは無い。コンビニこそオアシスであり、唯一のゴールだった。
僕が信号が見えるところまでたどり着いた時、ちょうど信号は点滅し赤に変わろうとしていた。
僕は全力で走った。ここ数年で一番本気だったし、必死だった。これに間に合わなければ僕は死ぬかもしれない。
だが、無情にも信号は僕が渡り始める前に赤に変わった。こんな時間にも関わらず車が何台も行き来する。渡ることはできない。
僕が絶望感から膝に手をついた時、追い打ちをかけるように背後から足音がした。
振り返らなくてもわかる。さっきの酔っぱらいだ。
いや、本当に酔っぱらいなのだろうか。精神異常者?それとも人間ではない?
でも足音するし脚はついているよな………
そう思っていると足音が僕の真後ろで止まる。信号はまだ赤だ。
終わった………
そう思った瞬間勢い良く肩をつかまれて「ひぇ」っと変な声が出る。
「さいふぅ…おとしましたよぉおぉお!でへへへ」
完
追いかけっこ 浅川さん @asakawa3
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