【闇憑き姉妹シリーズⅣ】深夜ラジオ

深川我無

深夜ラジオ

古びた銀色のラジオからガリガリと耳障りなノイズが聞こえる。


双子の姉妹、輪廻と車輪カルマは伸ばしたアンテナをあちらこちらからに向けて電波の安定する場所を探していた。


キュキュ…ぅう?ぃん。では!


ごろ…ころ……ぅぅう?ぎぎぎ…

 


『これは、深夜のお散歩で起きた出来事なんです…』


唐突に電波が入り双子は笑顔で顔を見合わせた。


ぎぎぎ…


が、がまががまが…ご…め


相変わらず時々入るノイズが耳障りだったが二人はベッドに並ぶと、両手で顎を支えながら足をパタパタ、ラジオに聞き入った。


『その日は蒸し暑い夜でした。タンクトップに短パンという装いにも関わらず、べったり嫌な汗をかいて眠れなかったんです…』


『わたしは夜風に当たろうと思って散歩に出かけました。夜の町はひっそりと静かで心地良い夜風が吹いていて、散歩に来て良かったと思いながら歩いていたんです…』


まガリまガリ…


カリ…だ…だ…ギギギ…し…て


『静かな夜の町は考えごとにうってつけでした。考えごとに夢中になっていると、いつのまにかある場所に来ていました』


『そのある場所っていうのは、古い空き家のある道なんですけど。その空き家は昼間でも薄暗くてとても嫌な感じがします』


『わたしはすぐに引き返そうとしました。だけどその家から女の子達の笑い声が聞こえて来たんです…』


『見ると空き家の窓に弱々しい灯りが動くのが見えます。きっと誰かが肝試しをしているんだと思いました』


たすけカタカタ…ポロン…て


『わたしは肝試しをしている子達に、ここは駄目だと警告することにしました。仕事柄、放っておくことが出来なかったんです…』


『意を決して、雑草が伸び放題の庭を横切り、玄関の前に立ちました。心臓が早鐘のようになり、膝が震えました』


キュイギュイ…くジらジジいジ…よ


『恐る恐る扉を開くと、湿気を含んだじっとりと重い空気が漏れ出してきました。生臭いような、酸っぱいような嫌な臭いも漂ってきます』


『おーい。ここは危ないよ!わたしは闇の中に向かって叫びましたが応答はありません。もしかしたらすでに困ったことが起きているのではと思い、わたしは中に入りました』


『部屋の奥からポロンポロンと調律の狂ったピアノの音が聞こえます。拙いピアノの音色が余計に恐怖を掻き立てました』


ポロン…ガガガががママが…


『音のする方に進みました。傷んだフローリングがギシギシとたてる音にわたしは逃げ出したい気持ちになりました』


ママあ…ジジジジ…ここから…


『ガラス戸の前に着きました。中からはピアノの音と少女の話し声が聞こえてきます。中の人が無事なことに安堵すると同時に、とても不吉な気配を感じました』


だだだだししししてててて


『スリガラスの扉を開くと信じられない光景が目に飛び込んできました。真っ黒な髪を腰まで伸ばした双子の姉妹が連弾でピアノを弾いています』


まぁぁまぁあ…

ここからぁあ…

だぁしてぇえ…


『二人が手を止めてピアノの鍵盤を見つめていると、鍵盤は独りでに姉妹の弾いたメロディをたどり始めました』


『わたしは驚いて尻もちをつきました。するとぴったり同じ動き、同じタイミングで双子はわたしの方を見て微笑みました。それと同時にピアノがガタガタ揺れて滅茶苦茶な音を響かせました』


ちゃんと練習するからぁ…

ここからぁあ…だぁしてぇえ…



『そのゾッとするほど美しい笑顔を見た途端、わたしは全速力で家から飛び出して真夜中の事務所に逃げました。そこに行けば安全だと分かっていたからです。わたしは無事に事務所にたどり着いて、先生に一部始終を話しました。これでわたしの体験したお話は終わりです』


『ありがとう御座いました!!ペンネーム亀さんのお話でしtgdp@%』


ラジオは再びノイズに掻き消された。


輪廻と車輪は顔を見合わせニヤリと笑う。


「とっても凄いね輪廻ちゃん!」


「とっても素敵ね車輪ちゃん!」


「わたしたちラジオで紹介されちゃった」

「わたしたちラジオで紹介されちゃった」


姉妹はベッドで抱き合い転がった。


そしておでこを重ねると二人は小声でつぶやいた。


「あの時のお姉ちゃん」

「怖がりのお姉ちゃん」


「亀って言うんだ」

「可愛らしいね」


「またどこかで逢いたいな」

「またどこかで逢いたいな」

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