40歳、白ねぎ農家の憂鬱
夢神 蒼茫
40歳、白ねぎ農家の憂鬱
一面、見渡す限りの銀世界。
白一色に覆われたその場所は、久々の日の光に照らされ、キラキラと輝く。
それだけならば、何のことはない。ただ奇麗だと、感嘆としていればよい。
だが、漏れ出るのは、億劫と憂鬱で満たされたため息だ。
なぜなら、目の前の雪の平原は、自分の畑だからだ。
白ねぎだからと言って、畑まで丸ごと白くなることもないだろうに。
そして、雪が解けて姿を現した白ねぎはペチャンコだ。
折れて曲がって、ぐしゃぐしゃだ。
ああ、一体いくらの損害になるだろうか、考えたくもない気分だ。
緑の葉っぱは全てがしなだれている。
これでは売り物にならないと、またため息が吹き出す。
だが、塞ぎ込んでばかりはいられない。
白ねぎは生きている。虫の息だが、生きてはいるのだ.
ほんの僅かな小指ほどの葉っぱであるが、天に向かって伸びようとしている。
押し潰されようとも、必死で生きようとしているのだ。
ならば農家として、これに応えてやらねばならない。
畑ははっきり言えば、沼だ。
日差しも弱く、渇く気配すら見えない。
だが、そんなことなど構ってはいられない。
私は農家で、目の前には白ねぎが列を連ねている。
畝は崩れ、畑が沼になろうとも、白ねぎは必至で伸びようとしている。
助ければならない。起こしてやらねばならない。
そして、足を踏み入れた。
ズボッ! グシャ! ズボッ! グシャ!
足を踏み出すごとに、耳に届く不協和音。
実に不快であり、寒さと相まって、体力を奪っていく。
だが、私は諦めない。
白ねぎもまた諦めない。
倒れた白ねぎを起こし、土を押し当て、首から下は起こしてやった。
これをひたすら繰り返すのだ。
ズボッ! グシャ! ズボッ! グシャ!
これで少しはマシになるだろう。
あとは白ねぎが御天道様をに向かって、顔を上げるのを待つだけだ。
頼むから起き上がってくれよ。
そうでなければ、私が困る。
白ねぎ、頑張れ! さあ、起き上がれ!
~ 終 ~
40歳、白ねぎ農家の憂鬱 夢神 蒼茫 @neginegigunsou
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