ぐちゃぐちゃ

あそうぎ零(阿僧祇 零)

ぐちゃぐちゃ

 私は今、追い詰められている。

 無様ぶざまな失敗を数回繰り返していたから、これ以上の失敗は許されない。

 だが、あいつは実にすばしこい。私の視力が奪われているのを見透かすように、縦横無尽に逃げ回る。


 状況は私に不利だ。

 砂の地面が不規則に波打っていて、油断すると足を取られる。

 それに、私はまだ眩暈めまいから立ち直れていない。体が少しふらついている。


 それにしても、耐えられない暑さだ。

 全身から噴き出した汗が、滝のように体を伝っていく。

 その様子を、あいつは嬉しそうに見つめているに違いない。幾分、好色な眼差しを交えて。

 強烈な日差しが、急速に体力を奪っていく。なぜ帽子を被って臨まなかったのだろう。

 戦闘を開始した時には軽々と握った木刀が、ひどく重く感じられる。早く片付けてしまわないと、早晩戦闘不能状態に陥ってしまう。


 暑さや体力消耗のためか、奇妙な想念が頭をもたげてくる。

 力いっぱい振り下ろした私の木刀は、見事あいつに命中する。

 だが、私は奔馬ほんばのようにいきり立ち、何度も木刀を振り下ろす。あいつはになって、周囲を赤く染める。

 しかし、残骸をよく見ると、なんとそれは、地面から頭だけを出した、私が嫌いな上司なのだ。禿た頭部は、無残にも原形を留めていない。


 このままでは、戦わずして熱中症で自滅する。

 私は妄想を振り払い、周囲に響く声を頼りに、あいつに狙いを定めた。そして、2歩、3歩と擦り足で間合いを詰める。

「きぇー!」

 渾身の力で木刀を振り下ろす。

「ボグッ」

 鈍い音が聞こえる。

 命中だ!


 私はすぐに、顔に巻かれたタオルを取った。一瞬、強烈な陽光に目が眩んだが、すぐに拍手喝采かっさいする同僚や上司が見えた。

 目の前にある大玉のスイカは、ではなく、綺麗に二つに割れていた。

 だが、今は嬉しさより恥ずかしさの方が強い。

 なぜ、職場のバーベキュー大会で、ビキニなんて着てしまったのだろう。

《完》



 

 


 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぐちゃぐちゃ あそうぎ零(阿僧祇 零) @asougi_0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ