悪魔のおにぎり

冥沈導

チュモクパプ

「……しまった、作りすぎたな」


 ある日の『にぎめし』休業日。椿つばは一階の店舗でおにぎりを作っていた。


 彼女が握ったのは、やみつき韓国おにぎり『チュモクパプ』。

 ご飯に刻んだたくあん、とびこ、刻み細葱。白いり胡麻、塩、マヨネーズ、ごま油を入れ、切るように混ぜる。

 それをラップで丸くピンポン玉サイズに握る、韓国の定番サイドメニューとして知られているカジュアルなおにぎりだ。


 それが、さわらの寿司桶に、二十個近くある。


「どうっすかなー……」


 椿佐は手を洗い、手ぬぐいで拭くと、しばらく『チュモクパプ』を眺め。


「あ!」


 閃いた。掛時計を見上げると、十一時五十分過ぎ、もうすぐ昼だ。


「あいつに電話してみっか」


 まえけのポケットからスマートフォンを取り出し、ロックを解除するとタップして電話をかけ始めた。





 昭和レトロなアパート『やなそう』の二階角部屋、二○五号室。


 その部屋の住人、立宮たてみやりゅうべいは、仰向けでベッドに寝そべり、漫画本を読みながら過ごしていた。


「あ?」


 枕元に置いておいたスマートフォンが鳴り、ロック画面に『握利飯椿佐』と出ていた。


「なっ!」


 龍平は漫画本を床に投げ捨てると、急いでスマートフォンを取った。


「……もしもし」


『あ、あたしだよ、『握利飯』の椿佐っ」


「んなこたわかってる」


『ははっ、そうだな。立宮、あんた昼の予定は何かあるかい?』


「……ねぇよ」


『そうか、よかった。じゃあさ、今からウチ来ないか? おにぎりたくさん作りすぎちまってさ』


「……行く」


 龍平はタップして電話を切ると、スマートフォンを握りしめ、アパートを飛び出した。





 

 『やなそう』から、『握利飯』までは、そう遠くない。歩けば十分じゅっぷんもかからない。

 だから、十九歳の若い龍平が走れば。


「立宮、早いなー」


 ものの数分で着いてしまう。


「……腹、減ってたから」


 勢いよく開けてしまった『握利飯』の入り口戸を、龍平はそっと閉めた。


「そうか、なら尚更よかったよ。こんなに作っちまったんだ、よいしょっと」


 椿佐はおにぎりがたくさん詰まった寿司桶を、ガラスケースの上に置いた。


「……何だこれ」


「やみつき、悪魔のおにぎり『チュモクパプ』さ」


「チュモ……、言いづれぇし、小せぇからって作りすぎだろ」


 カウンター席の前までやって来た龍平は、寿司桶を覗き込みながら言った。


「ははっ、だからあんたを呼んだんじゃないか。遠慮せずたくさん食ってくれ!」

 

「……まぁ、食うけどよ」


 龍平はいつものカウンター奥の席に置いてあったおしぼりを取り、手を拭くと、ガラスケースの上に置いてある寿司桶に入っているおにぎりを。


「ん」


 立ったまま口にひょいっと、放り込んだ。


「行儀が悪いぞ立宮っ」


「仕方ねぇだろ。寿司桶ごと持ち上げるわけにはいかねぇし。……けど」


「ん?」


「確かにこれは手が止まらねぇ、悪魔にぎりだな」


「だろ?」


「それに……」


「ん?」


「やっぱマヨは最強だ」


「ははっ、本当にマヨ好きだなー」



−−−−−−


 あとがき。


 暗重ぐちゃぐちゃを書いてしまったので、お詫びの美味しいぐちゃぐちゃ。

 でも、スピンオフ(笑)


このスピンオフで、もし、興味を持ってくださいましたら、よければ本編もー↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330649991600747

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悪魔のおにぎり 冥沈導 @michishirube

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