悪魔のおにぎり
冥沈導
チュモクパプ
「……しまった、作りすぎたな」
ある日の『
彼女が握ったのは、やみつき韓国おにぎり『チュモクパプ』。
ご飯に刻んだたくあん、とびこ、刻み細葱。白いり胡麻、塩、マヨネーズ、ごま油を入れ、切るように混ぜる。
それをラップで丸くピンポン玉サイズに握る、韓国の定番サイドメニューとして知られているカジュアルなおにぎりだ。
それが、
「どうっすかなー……」
椿佐は手を洗い、手ぬぐいで拭くと、しばらく『チュモクパプ』を眺め。
「あ!」
閃いた。掛時計を見上げると、十一時五十分過ぎ、もうすぐ昼だ。
「あいつに電話してみっか」
昭和レトロなアパート『
その部屋の住人、
「あ?」
枕元に置いておいたスマートフォンが鳴り、ロック画面に『握利飯椿佐』と出ていた。
「なっ!」
龍平は漫画本を床に投げ捨てると、急いでスマートフォンを取った。
「……もしもし」
『あ、あたしだよ、『握利飯』の椿佐っ」
「んなこたわかってる」
『ははっ、そうだな。立宮、あんた昼の予定は何かあるかい?』
「……ねぇよ」
『そうか、よかった。じゃあさ、今からウチ来ないか? おにぎりたくさん作りすぎちまってさ』
「……行く」
龍平はタップして電話を切ると、スマートフォンを握りしめ、アパートを飛び出した。
『
だから、十九歳の若い龍平が走れば。
「立宮、早いなー」
ものの数分で着いてしまう。
「……腹、減ってたから」
勢いよく開けてしまった『握利飯』の入り口戸を、龍平はそっと閉めた。
「そうか、なら尚更よかったよ。こんなに作っちまったんだ、よいしょっと」
椿佐はおにぎりがたくさん詰まった寿司桶を、ガラスケースの上に置いた。
「……何だこれ」
「やみつき、悪魔のおにぎり『チュモクパプ』さ」
「チュモ……、言いづれぇし、小せぇからって作りすぎだろ」
カウンター席の前までやって来た龍平は、寿司桶を覗き込みながら言った。
「ははっ、だからあんたを呼んだんじゃないか。遠慮せずたくさん食ってくれ!」
「……まぁ、食うけどよ」
龍平はいつものカウンター奥の席に置いてあったおしぼりを取り、手を拭くと、ガラスケースの上に置いてある寿司桶に入っているおにぎりを。
「ん」
立ったまま口にひょいっと、放り込んだ。
「行儀が悪いぞ立宮っ」
「仕方ねぇだろ。寿司桶ごと持ち上げるわけにはいかねぇし。……けど」
「ん?」
「確かにこれは手が止まらねぇ、悪魔にぎりだな」
「だろ?」
「それに……」
「ん?」
「やっぱマヨは最強だ」
「ははっ、本当にマヨ好きだなー」
−−−−−−
あとがき。
暗重ぐちゃぐちゃを書いてしまったので、お詫びの美味しいぐちゃぐちゃ。
でも、スピンオフ(笑)
このスピンオフで、もし、興味を持ってくださいましたら、よければ本編もー↓
悪魔のおにぎり 冥沈導 @michishirube
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