ぬいぐるみの限界

藤也いらいち

第1話

 スマートフォンのアラームがなり、意識が覚醒する。枕元に置いたくまのぬいぐるみを手探りで探す。このぬいぐるみはものを抱えられるようになっていて、高校の修学旅行先で買ってからずっとスマートフォン置きにしている。


 ぬいぐるみを探しだしアラームを止めると、鈍い痛みに気がつく。


「だめだな」


 最近、頭痛がひどい。しかも痛み止めの薬が効かない。


 日常生活に支障が出るほどの痛みではないが、これが二週間続くとさすがに気になってくる。


 いい加減休めと言うことかと、思いきって一日休みを取ることにした。幸い、仕事もそれほど忙しくない時期だ。連絡すると、上司にやっと休みを取る気になったかと一日の予定だった休みを三日にされ、どうせならと有休扱いになった。


 念のため、病院に行って検査を受けた。結果は異常なし。気休めに痛み止めをもらい、しっかり休んでください、と言われて帰ってきた。


 処方された薬ならなにか違うかもしれないと、昼食後に痛み止めを飲んで布団に潜り込む。眠気はすぐにやってきた。


 目を開けると、枕元に知らない男が立っていた。こちらを心配そうに覗き込んでいる。


「どちら様で?」


 あまりにも冷静な自分の声で、これが夢なのだと自覚する。


「大丈夫かい?」


 夢の中の男は心配の色をさらに濃くする。


「なにがですか」


「君、家に古いぬいぐるみがあるだろう。駄目だよ。ぬいぐるみは七年が限界なんだから」


 男はそういうと、とりあえず治しとくねと言って私の頭を撫でて、部屋を出て行った。


 なにが限界なんだろう。そう思ったところで、落ちるような感覚に襲われ、目が覚める。



「変な夢」


 昼間に寝ると、ろくな夢を見ない。薬が効いたのか頭痛は治ったようで、時間を確認しようとぬいぐるみの上のスマートフォンに手を伸ばして、つぶらな目のくまのぬいぐるみと目が合う。


「ぬいぐるみは七年が限界」


 このくまのぬいぐるみは八年前に買ったものだ。


 つぶらな目は静かにこちらを見つめていた。

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ぬいぐるみの限界 藤也いらいち @Touya-mame

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