宇宙船をもらった男、もらったのは☆だった!?6、ディスラプター

山口遊子

第1話 超長距離大規模転送装置ディスラプター


 アギラカナはゼノの装甲に対して反中性子砲弾を命中させ撃破する正攻法でゼノに対峙していた。ゼノの破壊は容易ではないが可能である。ただ、この正攻法では、ゼノの個体数が数十億を超えるような超大集団が相手となると完全撃破は不可能に近いものになる。


 そこで新たに対ゼノ駆逐方式案が考え出された。


 その方式案は、ゼノを別のゼノを標的として転送するというものだった。二体のゼノが実空間で文字通り重なり合えばゼノの装甲といえども崩壊し、ゼノ自身消滅すると考えられた。


 物体同士の重複実験は成功したのだが、ゼノのような超高密度の物体同士を重複させることはできなかった。やがて物体同士を実空間で重複する可能性は2つの物体の単位空間当りの合計質量の3乗に反比例するという理論が発表され検証された。これによりこの方向性は放棄された。


 次の案では、ゼノの集団内の固体は基本的に同一方向に亜光速で直進していることを利用し、ゼノの転送先を別のゼノそのものにするのではなく、その鼻先とすればどうかというものだった。


 転送過程である超空間内でゼノの実空間での移動ベクトルを180度回転させておけば転送後実空間に出現したゼノは直進する標的ゼノに正面衝突することになる。亜光速同士の衝突により2体のゼノは消滅するものと考えられた。


 しかし物体の移動ベクトルを超空間内で180度回転させる方法がなかった。そもそも転送は実空間において無時間で実行されるため実空間側から超空間内に対していかなる干渉も行なうことができなかった。



 そして今、3番目の方式の実験が行われようとしていた。この方式の提唱者は物理学など全くの素人である山田明日香宇宙軍中将である。



 ここはアギラカナ外周第2層に建設された新東京市の郊外に設けられた新東京大学大学院先端技術研究所の転送装置研の大規模実験棟。


 これまでの研究方針を変更し、物体を転送するのではなく、超空間に放り込んだままにしてはどうかという方向で研究が進められ、その実験がいまこの実験室で行なわれようとしていた。


 研究の視察にアギラカナの高官がみえるということで、実験室棟のモニター室内は緊張していた。もちろん研究主任を務める転送装置研の山口教授は誰が視察に来るかの連絡を受けていたが研究員たちには黙っていた。


 山口教授以下の研究員が詰めるモニター室に係員によって案内されてやってきたのは、航宙軍でも陸戦隊でもなく宇宙軍の制服を着た20代半ばに見える女性とその随員数名だった。襟に金ボタンを二つ付けているということは中将であり、宇宙軍には中将はただ一人。この実験の発案者であり、アギラカナ艦長山田圭一の実子山田明日香宇宙軍中将その人である。


「みなさん、そのまま実験を続けてください」


 そうは言われても緊張しないわけにはいかない。そういった中、山口教授が研究員に実験開始の指示を出した。


「これより実験を始める」


「「はい」」


「超空間転送機、起動」


「出力上昇。

 100パーセント定常」


「ターゲット、発信始め」


 転送ターゲットはモニター室から50メートルほど先に方に置かれた直径1メートルほどの球体だ。球体の中には超空間通信装置が組み込まれておりパルス信号を実験棟の超空間通信受信機に向けて送りはじめた。


「ターゲット照準良し」


「超空間転送、秒読み開始。10、9、……、3、2、1、転送」


 ターゲットが置かれていた架台の上から消失した。それまで受信していたターゲットからの超空間経由のパルス信号も停止した。超空間通信装置が超空間転送により故障した可能性がゼロではないが限りなくゼロに近い。超空間通信機は小型のものだが通信距離は千光年を超える。ターゲットがこの宇宙に存在したとしても少なくともアギラカナカラから千光年以上隔たった場所に存在していることになる。超空間転送機の出力は通常の転送ではターゲットを1万キロ転送するのがせいぜいの出力である。ターゲットは超空間に転送されたと考えられる。


「実験は成功と考えていいでしょう」


「山口教授、やりましたね」


「閣下のアイディアが実現出来ました」


「みなさんの努力の賜物です。

 これからもアギラカナ政府は全面的に支援しますので、今後の実用化に向けて頑張ってください」


「「はい」」


 山田明日香は視察終了後随員に指示して、山口教授の研究室にビール、日本酒などを大量に送らせている。



 5年後。アギラカナ全軍の支援の下、山口教授とその研究員たちによって超長距離大規模転送装置ディスラプターが完成した。その間アギラカナ艦長山田圭一は引退し、山田明日香が宇宙大将に昇進しアギラカナ艦長に就任している。



 そして、今日ディスラプターの公開実験がアギラカナの浮かぶ恒星間空間からやや離れた恒星間空間で、比較的恒星間浮遊小天体が多い宙域で行なわれる。対象宙域に存在していた小天体の総質量は約三千億トン。ディスラプターは対象宙域の微小天体を除いて全ての小天体を超空間にパージする。もちろん敵艦隊、敵惑星を対象とすることも可能な究極兵器である。



 アギラカナ航宙軍総旗艦S6級戦艦BC-0001-シタデルのブリッジ内。


 艦隊司令長官席に座った明日香は操作卓を操作して、状況を確認していった。


――父さんと、母さんの乗ったクレインも所定の位置についたようだ。


 実験実施艦、観測艦など所定の位置についている。


『実験開始十分前。秒読み開始』。ブリッジ内に機械音声が流れる。


『実験開始まで、三分。百七十七、百七十六、……、百二十三』


『実験開始まで、二分。百十七、百十六、……、六十三』


『実験開始まで、六十秒。五十七、五十六、……、三、二、実験開始』


 何がどう変化したのか知覚などできないが、観測艦のデータから実験宙域での質量があらかた消失したことだけは分かった。


『実験成功』


――根っからのアギラカナ人の私自身にはこの実験成功に対して特に感慨はないが、父さんと母さんは喜んでるだろうな。特に地球人の父さんは喜んでいるだろう。究極兵器『ディスラプター』か、……。



 これからアギラカナ航宙軍の大型艦は戦艦シタデルを先頭に順次ドック入りしディスラプターが装備されて行く。



[あとがき]

この外伝を読んでいらっしゃる方で本編を未読の方は少ないと思いますが、一応宣伝。

『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641 よろしく。



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