『白は日の色』に関する覚書

尾八原ジュージ

覚書

 2023年3月4日に完結した『白は日の色』ですが、例によってプロットなどもなく、行き当たりばったりで書いていたため、途中で方向転換したり色々やらかしていました。

 こちらはそういったことに関する覚書です。なお、大いにネタバレを含みますのでご注意ください。




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・連載を始めるにあたり、すでに決めていたことがいくつかあった。

 ・女性主人公が続いたので、今度は男性主人公で始める

 ・『吉備津の釜』オマージュをやる

 ・志朗貞明を冒頭付近から登場させる

 この辺り。

・で、第一話をとりあえず書いた。この時点で、

 ・とにかく実家がやばい

 ・晴は男だけど女の子の格好をしてる

 ・ねえさんは幽霊

 ・化け物は白いものが見にくい

 この辺りが決まっていた。一応2〜3万字の作品にするつもりだったので、これだけ決めておけばなんとかなるだろうと思った。17万字を超えるとは思っていなかった。

・タイトルは前作が単語だったので、今回は文章っぽくしようと思った。敵の弱点っぽくしておけば回収しやすいでしょと思ったが、本気で回収できなくなって困った。あとこの頃サカナクションの『目が明く藍色』をよく聞いていたので微妙にかすった。

・主人公の名前を「きっちゃん」としか決めておらず、「き」から始まる男性名がすぐに思いつかなくて書きながら焦った。なお他作品(『煙になって消えたい。』)に「せいちゃん」という登場人物がいることを後で思い出した。もちろん無関係です。

・最初、「夜になると家の外をぐるぐる回るもの」が怪異の主体かつ当主を死に至らしめているものであり、当主は代々それに惹かれて人外じみていくような感じで考えていた。が、のちに矛盾に気づいて改める必要が生じた。後述。

・なぜ七歳かとか、ぐるぐる回るものと文坂家にどういう因縁があったのかという点については、最初まったく未定だった。

・頭の方で志朗を出すことは達成したものの、彼がすんなり依頼を受けるビジョンが浮かばなくて断らせてしまった。連載数回目で早くも展開が詰まってしまい、阿久津が急遽登場した。最初は普通に善意の人として書いていたが、結局「善意だけどやべー女」になってしまった。彼女が狂ってくれたおかげで志朗をもう一度引っ張り出すことができたので、その点については大いに助かった。志朗が依頼を断った時点ではどうやって再度絡ませるか考えていなかったので……。

・上田秋成『雨月物語』の中の『吉備津の釜』に怨霊が家の周りをぐるぐる回るシーンがあり、怖くて好きなのでいつか真似しようと思っていた。これも前半で達成できてよかった。本懐を遂げました。

・阿久津さんがやべー女感を出してきたあたりで、どうストーリーを進めたらいいかわからなくなってきた。そこで分家編を挟むことにし、実花子や昭叔父などのキャラクターができた。たぶんこの人たちも大変なことになってるだろうから語ることあるだろうな〜と軽い気持ちで始めたが、結果的に重たくなってしまった。ホラーなのでどんどん死なせようと軽々しく踏み切った結果、仲良し一家の崩壊を追う羽目になり、正直書くのがしんどかった。

・本家の身代わり人形(マネキン)の顔が黒くなっていた下り、あとでまったく拾えなかったのが残念。サヨの固有能力のはずなのだが……。「白いものを被っていれば視認されにくい」仕組みを破るために搭載したけど、その後大きな設定の変更があったために出すことができなかったという事情。残念。

・文坂昭などの台詞は、方言変換の設定を「富山弁」にして作っていた。ちなみに志朗が訛るときは「岡山弁」に設定している。

・聖たちが志朗の事務所を再度訪れたあたりで大変なことに気づいてしまった。『吉備津の釜』リスペクトで何の疑問も持たずぐるぐるさせていたが、本作に関してはこれではおかしい。当主は化物を拒んでおらず、むしろ同じ部屋で毎晩待っている節さえあるので、ぐるぐる回らずにその部屋の前で好きなだけ交流を持てばいいのである。なんなら戸を開けたっていいじゃん……という感じで物語の根幹に関する矛盾に気づいてしまったが、もう何万字も書いてしまった後なので何とかこじつけるしかない。とても焦った。何も思いつかないが日刊連載のペースは守りたく、設定が決まらないままにシーンだけが進んでいった。

・以上の経緯があったので、「元凶は当主にガッツリ憑いており、ぐるぐるする方はそれを捕まえるために探している」という方針を思いついたときは小躍りした。確か聖たちがふたたび地元に帰る下りを書いている辺りで思いついた。

・志朗が阿久津の霊にアンプを壊されていたが、元々彼には趣味でギターを弾くという設定がある(が、本編に出す機会がない)。志朗のような性格の人物が無趣味ということはなさそう、むしろモテそうな趣味をもっているのが自然では、と思って作った。旧作で左手の指が全部折れたのでリハビリも兼ねている。あと無駄に歌が上手い、友人数人と「年一、二回ちょっとしたライブやってワイワイできたらいいよね〜」みたいなのを目標に緩くバンド活動している等、とにかく使わない設定だけはある。なお共通の話題になるかな? と思って聖の部屋にも以前はギターがあったという描写を入れたが、まったくその話にならなかった。いらない気遣いだった。

・「縦」をやることで、あらゆる手順をすっ飛ばして情報を出す下敷きができて便利だということがわかった。さすがに濫用するとまずいので危険ということにした。

・志朗が「縦」の情報を聖に伝えるシーンでは、まだ開示する情報の内容が決まっていなかった。当時私生活が何かと忙しく、小説の進捗にあまり時間を避けなかったため、情報開示が後々にズレ込んでしまった。

・とりあえず「戸を開けろ」という解決策だけは決まっていたので、住人が死に絶えた分家で扉の類が開きまくった。

・「よくないものは」以降、大まかな過去の事件などはぼんやり決まっていたものの、具体的な情報開示の内容を決めるには至っていなかった。そのため聖のパートで全ての情報を出せず、実花子のパートが始まった。

・実は最後にサヨ視点の話を始めようと思っていたが、おそらく明治〜大正時代が舞台になるため、時代ものの素養がなさすぎて諦めた。

・一度に情報を出してしまうと分家全員死亡エンドにたどり着けなくなるおそれがあるため、最後の方は匙加減が難しかった。結果的にかなり文字数が伸びてしまった。


●20230306追記

・今回志朗の弟子のまりちゃんを登場させることができず残念。「縦」のとき見学させようか迷ったのだが、まだ弟子になって数ヶ月の女の子をこんな案件に巻き込まないだろうなと思って断念した。登場していませんが、ちゃんと元気でお弟子さんをやっています。お師匠さんが突然入院したりして驚いたとは思うけど。

・最初、実花子を生存させて後の章で聖と合流させる方向で考えていた。残念ながらそうはならなかった。

・「よくないものは」10話で、志朗が仕事関係で腹を刺された話をしているが、これは「取りつかれた人間は何をしてもおかしくない」みたいなことになったときに伏線にしようと思って入れたやつだった。なお過去作既読の方はご存知のとおり、実際刺されていますね。仕事関係だけど結局プライベートの延長だと思います。


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今思いつくのはこんなところでしょうか……何か思い出したら適宜追加したいと思います。

(2023年3月5月現在)

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