このレビューを読んでる人の中には、もしかしたら小さい頃に「誰もいなくても、帰宅したら「ただいま」と言いましょう」と先生や親に言われた人がいるかもしれません。私もそうです。
これは「私以外にも誰かいるんだよ!」ということを周囲に知らせるためで、不審者が周りをウロついている時なんかに牽制する目的があります。
でも、その呼びかけてる相手がもしもこの世にいなかったら──?
生きてる人の未練、あるいは後悔。
それらはもしかしたら、死者よりもずっと強い力を持っているのかもしれません。もちろん、それは死者とて同じことですが。
この話は、そんな「何か」をずっと引きずって生きる人達がおり重ね、呼びかけていく物語です。
最初にあるのは小さな違和感。
そして、段々とその違和感がはっきりとした恐怖へと姿を変えていく様は見事の一言。先が知りたくて、つい次へ次へと進んでしまいます。
シリーズものの一編のようですが、この話単体だけでも読めるのも嬉しいところ。
ホラー好きな方には是非とも読んでほしい作品です。
ホラー短編の名手にして連載ジャンキーとも呼ばれるジュージさんの、最新ホラー長編、堂々の完結。おめでとうございます!
大切な誰かを失った時、多くの人はそれを受け容れることに長い時間を要します。そんな時に人が取る行動の一つ、「いなくなった人を呼び続ける」ことから始まる怪奇現象。それは派手な怪異ではないものの、整理をつけられない人の心のままならなさ、切なさが、悲しさを呼び起こします。
本作はジュージさんのホラー長編でおなじみの霊能者・シロさんの他、前作『まりちゃんは檻を作っている』の主人公・まりあちゃんも登場します。
読んでおくとエピローグや端々の味わいが増しますが、読んでいなくても楽しめる親切設計です。
知っている人には、初対面のシロさんを疑う時ってこうなるんだな~という場面もあり新鮮。
今回は呪いでも何でもなく、ただ「大切な人を失ったつらさ」から始まり、そのつらさに耐えて生きる終わりだったので、しんみりとした読後感でした。
唯一の心配は、片山絵里さんのその後がすこやかでありますように、だけです。