ぬいぐるみさん

いりこんぶ

第1話

 私にだって「ぬいぐるみさんみたい」って言葉が褒め言葉じゃないことくらいわかる。かけられる甘ったるい声はわたしをチヤホヤしているように見せかけて、その実そんなことを言う自分を持ち上げているのだ。

 でも目を吊り上げてみせても、どうせ冗談みたいに受け取られて目を細められるだけだから、じょうずに知らん顔をすることにした。それに、鈍感なフリをして大人しくしているとお菓子を差し出されることが増える。

 

 可愛い、とこちらを見つめる目はいつでも愛おしげだ。それなりに居心地は悪くなかったけれど、寝ている時でもしょっちゅう「撮影だよ」と揺り起こされるのには困った。

 彼女はスマホが大好きで、それをなによりも優先した。

 少しの我慢さえすれば「ごほうび」とたくさんお菓子をもらえるので、わたしはいつも眠い目を瞬かせて向けられたレンズを見つめた。


 だんだんと身体が重く、動きづらくなってきた。

 そうなると、ますます食べるくらいしか楽しみがなくて、ごはんよりもおやつだけ選んで口にするようになった。

 欲しがれば欲しがるだけ、簡単にそれは与えられた。もらったお菓子をかじっていると、彼女はいつもスマホをこちらに向けた。

 写真や動画を撮りながら高い声で「可愛い」と連呼されると、なんだかんだで自分は愛されていると思った。


 でも最近、喉がやたらに渇くようになった。おしっこはじゃぶじゃぶ出るけれど、出すときに気持ち悪い感じがする。

 遊びたいのに始終だるくて、眠る時間が増えた。伸びをしても全然すっきりしない。食べる量は変わらないのに、どんどんと身体だけが痩せてきた。

 寝床から起き上がるのもおっくうで丸くなる私を見ても、彼女はあくまでも満足気だった。わたしのなにかが彼女を満足させているらしかった。

 嬉しくて、わたしはにゃあと掠れ声で鳴く。

 彼女は笑って「おもちゃみたい」って言いながらスマホをこちらに向ける。

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ぬいぐるみさん いりこんぶ @irikonbu

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