ぬいぐるみの死

@ns_ky_20151225

ぬいぐるみの死

 今朝、起きたら枕もとのぬいぐるみが死んでた。ずっと一緒に寝てて、洗濯はしてるけど薄汚れてる犬。寝る前はわたしの話を聞いてくれてた。

 もうちがう。どこかが破けたとか切れたとかじゃない。ただ分かる。死んだんだ。

 妹に話すと笑われ、それでも言い続けてると表情が変わり、母を呼んだ。

 母は心配そうにし、父に言ったがいつものように無関心。いらだった母はわたしを叩き、ぬいぐるみを捨てた。でも悲しくなかった。死んだんだから。妹は小声でかわいそうとつぶやき、ごみ箱から拾い上げて自分の部屋に持っていった。別にかまわない。死骸なんてどうでもいい。

 ぬいぐるみは死んだけど、いつものように登校する。そして、彼と別れた。わたしとしたがってた彼。それは分かってたし、実をいうとわたし自身興味もあり、そろそろいいかなと思ってたのだが、もうだめ。ぬいぐるみが死んだのになぜ生殖行為をしなくちゃいけないの?

 帰り道、ぬいぐるみの死を経験した人とすれ違った。見れば分かる。しばらくすると、そういう人が世界中で増えてきた。報道で取りあげられるようになる。突発性の無気力。主に若い女性に発生。みんなぬいぐるみが死んだと言い、感情の起伏が小さく緩やかになる。特に性的な興味や行動がなくなる。治療は当人が望まないうえ、日常生活は正常なので施しようがなかった。生殖に無関心になる点のみ問題で、離婚が増加した。

 妹はまだあの犬を持っている。時々わたしに聞く。一緒にいてあげないの? わたしは答える。死骸とは寝ない。妹はとてもとても悲しそうな顔をし、その時だけちくりと胸が痛む。嘘をついて引き取ろうかと思ったけど、やはり死骸は嫌。

 わたしは布団をかぶって考える。ぬいぐるみの死が分かる人はみんな子供を残せない。なら世代を重ねると分からない人ばかりになる。

 ホモ・サピエンスという種にとって、それは凶報? それとも福音?

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