ぬいぐるみに守られて幸せに暮らしましたとさ

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

あやこちゃんはぬいぐるみにまもられています

 「おやすみなさい。」

 おふとんをばさばささせて、なかにはいって、そしたらみんな・・・にもおふとんをかけてあげる。

 くまさんのごーちゃん。ウサギさんのきーちゃん。ネコさんのミューちゃん。ゆにこうん・・・・・さんのマーちゃん、ワンちゃんのパーちゃん

 「みんな、おやすみなさい。」

 おやすみのごあいさつをしてめをつぶった。


 少女がぬいぐるみに布団をかけて眠りにつく。

 彼女がすぅすぅと小さな寝息を立て始めた頃、布団の中が動いた。

 それはあやこちゃんの布団ではなく、ぬいぐるみの布団だった。

 「アヤコちゃんは今日、どうだったクマ?」

 「………………………………………………」

 「………………………………………………」

 「………………………………………………」

 「今日は怖いおじさんが怖い顔をして大きな声で怒っていたピョン。

 アヤコちゃん、とっても怖そうだったピョン。」

 クマのぬいぐるみのごーちゃんとウサギのぬいぐるみのきーちゃんが布団から這い出して人の様に動き、話していた。

 二はアヤコちゃんの特にお気に入りのぬいぐるみ。

 動けるようになってから今まで、アヤコちゃんには秘密でアヤコちゃんの為にこっそりと動いてきた。

 「アヤコちゃん、かわいそうクマね。」

 「どうにかしなきゃピョン。」

 二は綿の頭を捻って考えた。

 「よし、ぼくたちで何とかするクマ!」 

 「そうピョン。やっぱりそれが一番ピョン!」


 夜道を不愉快そうに男は大股で歩く。

 「ったく、なんて奴らだ。最近のガキ共は……」

 長年必死に社会の一員として働いてきた俺に対して敬意が感じられん。年長者を尊ぼうという殊勝な心掛けが無い。それどころか人を見て顔を歪めて腫物扱い。挙句の果てに今日は泣き出した。

 なんという奴等だ。世も末だ。

 「ったく、人様を何だと思っている……」

 「そりゃぁ、煩わしいヤツだと思ってるクマよ。」

 「本当に尊敬される人間は尊敬しろなんて言わないピョン。だってそんな事言わなくたって尊敬されるピョンからね。」

 「失礼だなお前達は!」

 怒鳴って声がした後ろを振り返る。

 しかし居ない。何も、誰も、居ないのである。

 「本当にやっちゃうクマ?」

 「やっちゃうピョン。そうすれば皆ニコニコピョン。」

 声が、足元から聞こえた。

 「なんだ、誰の悪戯だ!」

 ぬいぐるみが二つ落ちていた。

 誰かが録音するぬいぐるみを投げ捨ててからかっている。そう思ってそれを拾って投げつけようとして……

 「さ、お前もアヤコちゃんの幸せになるクマ」

 クマのぬいぐるみが勝手に動いて腕に巻き付いてきた。

 「アヤコちゃんを泣かせた分償うピョンよ。」

 ウサギのぬいぐるみが飛び掛かって顔を覆う。

 「ふ、ムグ フグググごごゴご……」

 顔に付いたぬいぐるみを剥がそうとして、手を伸ばしたのに、指先の感覚が無い。

 指が、動かない。ぬいぐるみ越しに何かがぶつかってきているのは分かるが、それは手の感覚ではない。それは綿を詰めた布の様な、そう、それこそ………

 「お前」「アヤコちゃんのぬいぐるみになれ」

 体の動きが鈍く、動かなくなっていって、そうして、俺は、俺は……




 あやこちゃんはとってもしあわせ。

 いじめるわるいこはいない。ごはんをくれないおかーさんもいなくなった。いっぱいいたいなでなでするおとーさんはどこかにいった。

 いじめられて、ねたらあさにはネコさんがいた。いじめたみゆちゃんみたいだからこのこはミューちゃん。

 ごはんをくれなくて、おなかがへってねたらゆにこうん・・・・・さんがいた。ママにみたいだからこのこはマーちゃん。

 いっぱいいたいなでなでして、いたくてねたら、ワンちゃんがいた。パパみたいだからこのこはパーちゃん

 そして、きょうのあさ、おさるさんのぬいぐるみがふえた!

 きょうもだいすきなぬいぐるみといっしょにねる。

 あしたもぬいぐるみがいっぱいだといいな。



 ごーちゃん、きーちゃん、ありがとうございました。

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ぬいぐるみに守られて幸せに暮らしましたとさ 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika

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