KAC20232  「ぬいぐるみ」

小烏 つむぎ

KAC20232 「ぬいぐるみ」

 ボクが初めてもらった「ぬいぐるみ」は、ふわふわの小さなボールだった。誕生の祝いだと伯母からもらったそれは、キナリのタオルで出来ていて柔らかなわたが入っていた。その真ん中には鈴が一つ。掴んだり、噛みついたり、動かす度にチリチリと可愛い音をたてていた。


 次にボクがもらった「ぬいぐるみ」は、子どもが抱けるくらいの大きさの人形だった。祖母の手作りだというそれは、体と手足は祖父の真新しい白い肌着で出来ていて顔には手書きの目と口、毛糸の髪の毛が生えていた。どこかしら母に似た顔で、何処へ行くにも一緒だった。


 その次にボクがもらった「ぬいぐるみ」は、ゲームに出てくる異界の怪物のキャラクターのものだった。中学校に上がった従兄が、「お前のために取ってきてやった。」と窓越しに投げてきた。それはボクではなく従兄がやり込んでいたゲームだったが、その肌触りと艶やかな彩りは気に入った。ボクはそれを壁に飾った。


 次にボクが「ぬいぐるみ」は、その頃ボクがハマっていたゲームのキャラクターのもの。枕のような筒の胴体に丸い顔のついた「ぬいぐるみ」。

いつ行っても店では入荷待ちで、欲しい欲しいと言ったけれど誰もボクにくれなかった。仕方ないのでネットで探して、ものすごく高額だったけどボタンを押した。

もちろん支払いはボクじゃない。たまたま知ったどこかの誰かのカード。


 そして今。


 ボクがどうしてもどうしても、どうしても!もらいたい「ぬいぐるみ」は、地下アイドルのあの。いつ行っても笑いかけてくれるし、やさしく手も握ってくれる。一緒に写真におさまってもくれるし、ボクの目を見つめて「もう帰るの?寂しいなぁ。また来てね!」って切なそうに言う。


 が欲しいな。


 でも欲しい、欲しいと闇雲に言っても誰もくれはしないと、もうボクは知っている。そしてあのの「」はネットにも載ってない。


 ねぇ、どうしたらいい?

あの娘の「」が、欲しいんだ。


あので作った……「」が。



*******************


この作品は霧野様作「あなたのための本、あります」を読んで着想を得たものです。

決してコラボ作品ではないのですが、「あなたのための本、あります」を読まなければ生まれてきませんでした。

「ボク」がこの後どんな行動に移るのか……。

ぜひぜひ読んでみてください!


霧野様作

「あなたのための本、あります」KAC20232 「ぬいぐるみ」より

「本は薬のようなもの」

https://kakuyomu.jp/works/16817330653943489485

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAC20232  「ぬいぐるみ」 小烏 つむぎ @9875hh564

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ