焚書の炎は、本の叫び

 謎めいた語り口から「好きなように解釈してくれたまえ」というメッセージを感じたので、的外れになってしまう恥を怖れず、筆者個人の印象にもとづいてレビューさせて頂く。


 この物語は、焚書をテーマとした寓話。たとえ話である。しかし、誰かの都合で知識がないがしろにされてゆく危機を訴えるのみに留まる話とは、ちょっと違う。

 本は、燃やされることで自らの価値を主張しているのだ。

 権力や富を独り占めしようと目論む者にとって、他者こそが最大の謎であり敵だ。手段を選ばない野心家なら、すぐさま個人の頭の中にまで手を突っ込むだろう。巧みな宣伝工作による同調圧力。不都合な記録や意見のもみ消し。政治や商売のグレーゾーンからインターネットの場末まで、騙されやすい大衆をコントロールしようとする力、荒れ果てた地球を覆わんとする闇はどこまでもはびこり、本を燃やす炎はいつまでも絶えない。
 だからこそ、知識は人生の闇を切り拓く灯火になる。そして、今も世界中で思想統制の嵐が吹き荒れ、それが平和を乱す元凶となっていることを忘れない、ということもまた、人生の闇を切り拓く灯火になる。
 その炎こそは、本が放つ断末魔の叫びだ。

 だが、いくつ本が焼かれようとも、知識はたやすく無かったことにはできない。
 メソポタミアやエジプトの神話、ギリシアやインドの哲学が、不完全ながら今でも知られているように、人間の意図も時代の移り変わりも超えて、知識の炎は輝き続ける。


 だから読書は大事だと、この作品は言っているのだろうなと思った。

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