本は友達

本に取り囲まれた図書館のような世界で生まれた主人公が、
さみしさに突き動かされ、愛を求める一心で、図書館の中をさまよい、
誰かに会えるかもしれないという希望だけを与えられて、
けっきょく誰とも出会えずに死んでゆく物語です。

この物語における図書館とは、未知の恐怖にあふれた世界の象徴。
主人公にとって本は知識を与えてくれるけれども、それは単なる情報であり、
生きた人間のように愛をもたらすことはないのです。

けれども主人公は気づきません。
友達ならすぐそこにいるのに。

現実世界において、生きた人間が何をしてくれるでしょうか?
興味もない話題に付き合わされたり、
調子を合わせなければ仲間はずれにされたり、
コミュニケーションの楽しさと引き換えに、わずらわしさを感じることはありませんか?

本好きの我々は、ときに人間よりも本のほうが優しいことを知っています。
コミュニケーションは人間相手でなければできないものですが、
本は、我々がどういう読み方をして、どんな感想を持とうとも、不機嫌になったりはしません。
こちらのペースでいつでも読書を中断でき、読みたいときには一気読みもでき、
興味のない話題なら、何の気遣いもせずページを閉じ、別の本を探せばいいだけのこと。
だからこそ、図書館は本好きにとって楽園であるはずなのです。

人間と違って本は死にません。
そして、きちんと付き合えば終生の友となりうるような、愛のこもった本はいくらでもあります。

「図書館は辺獄などではなく、友達はそこらじゅうにいる」ということに
主人公は気づかぬまま生涯を終えてしまいますが、
活字が苦手な人にとっての本の取っつきづらさみたいなものを、この物語はよく表現していると思います。