楽園を求める人間は狂っているのだわ。

不特定多数のユーザーがログインしては自由に過ごしログアウトしてゆく
VR空間のような架空の世界“シコウ”が、このお話の舞台ですが、
商業化されたVR空間と違って、
本作の“シコウ”は、人間の意識が実生活から離れ、
とりとめもない思考に耽るとき、つかのま訪れる世界です。

図書館で本を読み耽っている姿を想像してみて下さい。
あなたの周りには書架がいくつも立ち並び、
読もうと思えばどの本でも、
理路整然とした他人の思考の産物に触れることができます。

世間の喧噪から切り離され、空調の効いた図書館で、
いつまでも好きなだけ本を読み耽っていられたら、
どんなにすばらしいでしょうか!

しかし現実では、食事やトイレのために席を立たねばならず、
時が経てば日も暮れます。
ですから“シコウ”も図書館と同じく、
とりとめもない思考に耽る者にとっての、つかのまの楽園なのです。

そんな“シコウ”で、データサーバーみたいな役割
(彼が思考をやめると“シコウ”の世界が消える)を受け持つ主人公が、
自分は“シコウ”の主といえるけれども
自分ひとりの力では“シコウ”のような複雑な世界を生み出せるはずがない、
というひらめきから、
“シコウ”は誰が作ったものか?と考え始めます。

まともな精神の持ち主では作れるはずがない。
ならば、“シコウ”の創造主は狂人なのでしょうか?

楽園が実在しないのなら、
楽園を求める者は狂っているのでしょうか?
……みなさんは、どう思いますか?