楽園

寧依

1.

 「古今東西、子どもが読みます物語りと言うのはどれもこれも美しいものばかりでございますわね。」女がしなだれかかるようにして僕に言った。

 「確かに確かに。しかし仄暗い物語なんぞ純真無垢な子供らには毒だろう。」少し離れたところから銀髪の老紳士が話しかけてくる。僕は黙って耳を傾ける。

 「私美しい物こそ毒だと思いますの。」女が指先で髪を弄びながら続けて言う。

 「純真無垢な世界など何処にもないでしょう?」

 「確かに確かに。美しい幻想は人を狂わせる。丁度貴方のように。」銀髪の老紳士が僕に向かって恭しくお辞儀をする。彼に答えるでもなく、弄ぶ髪を僕のものに変えた女をぼんやりと見つめる。


そして僕は思考する。


意味もなく、理由もなく、終わりもなく、


僕は”シコウ”の主である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る