第7話 落ちついて話せないなら人質だ

 集団が私たち目掛けて駆けてくる。

 その速度よりも早く走り、接近するとまず一人胴体に横一線。

 お大根様の薄緑に光り輝くボディーを打ち込んだ。


「かはぁっ!」


 腹をおさえうずくまる近衛兵。


「うおぁぁあああ!」


 切り付けられたと思ったのか、それをみた仲間の兵士が目を血走らせ、剣を右側から振り下ろしてきた。

 一文字のお尻からすぐさま返すお大根様でそれを受ける。

 ついで、左から大ぶりにこちらへ横一線とやってくる刀身とうしんを、頭上で踊らせたおボディーを上段から振り下ろし、打ち落とした。


 そして返す一閃、斜め下からズバッと根身こんしんを振ると――相手は倒れた。


 次から次へと湧き出てくるような相手を、切っては地にふせ切っては地にふせ。

 気づけば一人で立っていた。


「……ふぅ……。」


 気を抜くと、注力してかたどられていたボディーが消える。

 手元には、やはり実のほとんどない葉っぱばかりが立派な大根一つ。

 これで戦えちゃうんだもんなあ。

 なんて考えながらつい、今私を助けてくれたお大根様をぷらぷらさせてしまう。

 武道なんて授業でやった通り一片しか知らないけれど、おばあちゃんとみていた時代劇大好きっ子のイメトレやチャンバラごっこは、案外役に立ったらしい。

 何かの力の補助もあるだろうけど。


 と、後ろからパンパンパンと拍手が聞こえてきた。

 振り返ると、アルデバイデが笑みを浮かべながら両手を鳴らしている。


「いや、実に見事なものじゃ。手慣れておるのぉ」

「コレが初めてです」

「……は?」


 魔王サマの目が点になった。

 口もポカンと空いている。


「多分何かの力が働いてるんだと思います、私は普通の主婦ですから」


 私は苦笑しながら言葉を発した。

 それ以外説明がつかない。

 本当に、私は子供と家計のためにかさを増したハンバーグを作るような、どこにでもいるありふれた主婦だったのだ。

 広告と睨めっこをしては、食費を抑えつつどうボリューミィな食事を作れるか、なんてことを考える……普通の。


 城門の方を見る。

 取りこぼした一人が、よろよろと中へ向かっている。


「急ぎましょう、話ができなくなってしまう前に」


 走り出しつつ振り向き告げた。

 二人とも、ただ頷いて駆け出し始めた。


 手を出してしまった以上、弁明は一回きりだ。

 それも、大事になってしまう前、拗れ過ぎてしまう前に。

 たどり着かなければ、王様の元へ。


 また数人ほど、道行きで飛び掛かってきたのをいなし。

 城下町内を疾走して王城へとついた。

 もう伺いを立てることはしなかった。




 ※※※




 謁見の間。

 赤い絨毯に白く光り輝く壁。

 柱は円柱で天井近くには彫刻がしてあり、その天井は多分金箔による装飾が施された格子になっていて。

 その四角く縁取られた中には、四季折々の絵画のようなものが嵌め込まれていた。


 そこに、周りをずらりと近衛兵で固め、その人はいた。

 かぼちゃパンツは履いていなかった。

 白いタイツは履いていて。

 すね毛の先がちろりと繊維の隙間から漏れ出ていた。


「テテロン王、大変申し訳ございませんでした」


 ハルトスンが、着くや否や片膝をつきこうべを床にあたるくらい深くさげた。


「発言をそなたに許した覚えはない」


 テテロン王と呼ばれたその人は、ふっくりとした頬とお腹には似合わぬ、とても深く渋い声で静かに。

 けれど、どうとっても明らか怒りに震えていた。

 豪奢な椅子の手すりに乗せた手が、ぎゅっと硬く握られる。


「しかし、王」「黙れ!!」


 部屋に、叱責がこだます。


「聖女降臨の知らせを受け飛んでいけば、部屋はもぬけの殻。お主までおらぬ。方々を探し見つけたかと思えば、敵方の長と共に、こちらへ向かっているとの情報」

「それは……」


 ハルトスンが、言い淀んだ。

 聖女がとんでもでした、敵は敵じゃなくていいやつでした。

 なんて言えない雰囲気なのだから仕方がない。


「せめて連絡でも飛んでくるかと思ったが。それもないとなると……いよいよ、となるのはお前でも解ろうというもの」

「申し訳、ございませんでした」

「言い訳は聞きとうない。私はお前に失望したのだ」


 連れて行け、と近衛兵に言うのが聞こえた。


「待ってください!!」


 私は思わず声を上げていた。


「私はそちにも発言を許した覚えはない!!」

「なっ!」

「聖女だからと地位があると思うておるなら勘違いも甚だしい!!」

「いや、地位じゃなくて、一応の事情を」

「黙れ!! ……女や子供に、王たる私へ先に声をかける権限はない」


『お前は女だろ、俺のいうことを聞いてればいいんだよ』


 耳の奥に、とんでもあんにゃろうの幻聴が響いた。


「……黙って聞いてたら、抜け抜けとっ」


 私は、この世界で手に入れた足の速さを利用して王に近づくと、お大根様の根身を光らせ、その首筋に当てた。


「兵は下がれ!! 下がらないと王の命はない!!」


 ざわめく広間。


「なんてことを……」


 口を半開きにしながらオロオロする醤油。

 ただ一人だけ、それを面白がる瞳。


 カオスがその場を支配していた。

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くらえ、大根ノックソード!〜 私のぷにぷに返してよぉ!帰りた主婦の異世界帰宅珍道中〜 三屋城衣智子 @katsuji-ichiko

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