第6話 突破するしかない
結局五人分の食事を平らげた。
「……どこに入ったんださっきの食物が」
と、アルデバイデが感心したのか呆れたのかお腹を触ってきた。
のでその脳天にチョップをお見舞いする。
「痛っ! なにをする?!」
「それはこっちの台詞です! なに乙女のお腹を断りもなく触っちゃってるんですか、失礼どころかエロ親父ですよそれ、ドクソです」
うじ虫を見るかの様な視線を投げると、流石にまずいと思ったのか揉み手をしつつ目をキョロキョロさせた後、頭をさげながら謝ってきた。
次はない、と言いつつ許すとその場を後にした。
そうしたりこうしたり、途中夜盗を退治して小銭を稼いだりして(これは稼ごうと思ったのではなくて成り行きだ)。
また、美味しい食事をいただきながら歩みを進め、私達は二泊三日の旅程をこなした。
王都へと向かうにつれ、風景も様変わりする。
行き交う人々は私の知るヨーロッパのような、金髪や茶色い髪が増え始め、瞳も青や緑といった色となっていった。
黒髪、黒目もいる。
けれど私のように日本人的な顔立ちではなく、みんなどこかオリエンタル風だったり、混血っぽい風貌だったり西洋っぽかったりと、彫りが深めだった。
建物は高層階のものは見えず、平家だったり、あっても二階か三階。
それも木造に漆喰だったり、地域によっては石造りだ。
造形もTVで見たような見たことないような、そんな雰囲気だった。
異世界。
改めて、よくわからない世界に来たのだと実感した。
やがて段々と、景色に建物群の割合が増えてきた。
「あれが、王都です」
ハルトスンの指差す方向に、高い高い城壁と、それを守る
城壁は固そうな石を積み上げできていて、城壁には所々――矢でも射るのだろうか――小さな穴が空いていた。
随分と外周が大きく、端が見えない。
確か、
「当たり前なんだろうけど、すごく大きいですね」
「中心地ですからね。商業も農業も盛んで、人の往来も多いですよ」
ハルトスンの自慢の故郷なのだろう、明らかにテンションも表情も変わっている。
「ほう、わしも見るのは初めてじゃが、栄えておるのぅ。こりゃ楽しみじゃ」
アルデバイデの方も、初の旅行とあって、少しはしゃぎ始めた。
歩くその様がスキップに似てきている。
「……だが変じゃの、なにやら物騒なナリの者がうろついとるようじゃが……」
言われて見やると、確かに城門の辺りに鎧――光っているから金属?――を着たゴマつぶサイズの人が二……三、四、ううん、二十人くらい。
うろうろしながら、道ゆく人に何か聞いたりしている様子だった。
「ねぇ、あれって……」
隣にいたハルトスンの肩をツンツンする。
やられた彼の、喉仏がゴクリと上下するのが見えた。
「ですね……城の、あれは近衛兵です」
「近衛兵って?」
「王直属の軍隊の兵士です。王が兵をお出しになったとは……」
ハルトスンの顔が、心なしか血の気が失せていっている気がした。
「聖女一人消え失せたくらいで、大仰なことじゃ」
アルデバイデは呆れ顔だ。
「これ、私たち見つかったらどうなります?」
嫌な予感を胸に、ハルトスンに尋ねる。
「……そうですね、縛って捕虜にもしていない敵方と一緒にいるので……良くて捕縛、悪くてその場で切り捨て、でしょうか」
「まじですか……?」
「やりそうなことじゃなぁ」
魔王様は呑気だ。
「血気盛んすぎでしょ! 理由を考えるとかしろ! ……どうしましょう」
「裏手にもう一つ門がありますが……ダメでしょうね」
「ダメじゃな。あ、見つかった」
目ざといアルデバイデが指をさした。
「ひとまず撤退しましょう」
醤油が馬の手綱を引いて方向転換をしようとする。
それを手で静止して、私は背中に背負っていたお大根様ソードを手にし、前面に構えた。
「こうなったら突破します!」
「えっ、ちょ……!!」
言った瞬間にもう駆けていた。
「お主、やるのぅ♪」
背中に魔王様のぴゅぃぃという口を鳴らす音を聞きながら一気に加速した。
だって、ここで撤退したら遅くなるじゃない!
私はこの作業を早く終わらせて家に帰りたい……!!
「王様に用があって戻りました! 黙っていなくなってごめんなさい! 敵じゃないです!」
「いたぞ捕まえろ! 見習いは抵抗するなら切って捨てていいとのお達しだ!」
「うぉぉおおお!!」
「ダメだ話が通じない!!」
おおおおお! と向かってくる近衛兵の波へと突っ込んだ。
「峰打ち御免!!!!」
くらえ、大根ノックソード!〜 私のぷにぷに返してよぉ!帰りた主婦の異世界帰宅珍道中〜 三屋城衣智子 @katsuji-ichiko
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