第5話 それって行方をくらましてるじゃん

 馬の休息は体感で二時間くらいを要した。

 というかそれで済んだの? と思ったけれど、何でも特別な馬らしい。

 あと、聖水がどーのと言っていたから何かドーピングをしたんだろう。

 何はともあれ、出発できさえすればそれで良いので、特に気にはせず応接間で酒の肴を頼んでもしゃもしゃしつつ、アルデバイデとハルトスンと一緒に時間を待った。

 我ながら酷いと思う。

 けど思い入れもないし……。


「そういえば、ハルトスンは私を召喚した人、であってます?」


 ふと気になったので待ち時間中に尋ねると、意外な答えが返ってきた。


「いえ、違います。召喚の儀式をしたのは神官たちです。私は立ち会いで……召喚に成功したので神官達は報告するのに方々へ出払ってしまって、だから私一人見届けるためにあの場にいました」

「そうだったんですか。……て、もしかしていなくなったの不味くないですか?!」

「あ」


 なんてこと。


「なんだお前達、駆け落ちしたのか」

「「違います!」」


 私とハルトスンの声が重なった。


「……ハルトスン、立場不味くないですか」

「怒られるでしょうね……仕方がないです」


 気を回せなかったのが情けないと思ったのか、彼は気落ちしたようだった。

 困った。

 私は慰める心持ちも、かける言葉も持ち合わせていない。

 すっからかんだ。


「……あまり酷くない懲罰だといいですね」


 私は慰めにもならない微妙な声かけをした。

 予想通り、ハルトスンはなんとも言えない顔をした後、「お気遣いありがとうございます」と大人な対応をしてくれる。

 居たたまれない。

 気まずくてもう一口だけ、と私はお酒をひねった。

 コップにヒビが入ったのは正直に申告をした、だって自分がやらかしたんだからきちんと落とし前はつけないと。

 使用人の人は、いいですよ、と快くヒビの入ったコップを片付けてくれた。

 申し訳ない……。




 移動のための荷物も準備が整ったので、三人で出発することになり魔王城を後にした。


「……というか、なんで三人目がアルデバイデさんなんですか?」


 そう、何故か魔王というか長命種アルルの長、とか言った方がいいかな? の彼が一緒についてきていた。

 長なんだから部下とかその辺に任せればいいのに、なぜだ。


「何、久しぶりに旅行でもと思ってな。案ずるな、別にウリリ側を根絶やしになぞ思うとらんよ」

「留守中に攻めてこられたりしません?」

「今戦力はこちらが上じゃ。下手なことにはなりはせんじゃろうて、わしは部下を信頼しておる」

「そうですか」


 なんだかアルデバイデは楽しそうだ。

 私は事情がまだうまく飲み込めていないから、そこのところを深く考えるのはやめにした。

 何より、双方から話を聞いてみないことにはこういった事は判断するもんじゃない。


 ふとハルトスンを見ると、馬を引きながら少し難しい顔をしていたけれど、それにも見てみぬ振りをして。

 奇妙な三人旅は、そんな微妙な空気でスタートしたのだった。




 ※ ※ ※




 ものすごい勢いで走ったからわからなかったけれど、私が召喚されたウリリ、というか勇者という刺客を送ってくる国? 名前そういや聞いてないな、とこのアルルの長の城とはかなりの距離があるらしく。

 旅程は二泊三日ほどかかるらしい。


 道中、街の風景などを今度はしっかりと見てみたら、荒んだ感じはせず、畑もよく世話がされ、道ゆく人たちも表情は明るい。

 フツーの、ただ外見が違うだけの人間、のように見える。


 アルデバイデの言うこともあながち嘘ではないのかもな。


 自然とそう思えた。


 とにかく歩きに歩いて。

 もちろん途中で昼食だのは取ったけど。


 ――そう、こちらの食事、めちゃくちゃ美味しかった!

 ビンボー工夫食に慣れてる私の舌とはいえ、こちらの世界の調味料? 香辛料? は段違いくらいはわかる。

 独特の風味の中に旨味があって、癖になるのだ。

 思わずお肉のような何かのおかわりをして、アルデバイデとハルトスンがこちらを見て目を丸くしていた。


「よく、お食べになるんですね」


 感心したような返事の不要そうな言葉に無言でこたえ、ひたすら食べる。


 いや、だって考えてもみてほしい。

 買い出しに行っていた召喚直前はお昼前だったのだ、当然食事はこれからだった。

 召喚されてからこっちも、おつまみとアルコールは摂取したけれど、そんなに大量には食べていない。

 それになんだか、力を使った後からほんとのほんとにお腹がぐうぐうなのだ。

 食べて何が悪い。


 しかも、ただ飯である。


 ありがたくいただくのが私の礼儀。

 そんな気構えで、物珍しそうな視線をかいくぐりただ黙々と美味しく料理を平らげた。

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