可否茶館
二日目は、
三日目は、
四日目は、
五日目は、
六日目は、
出発から五時間程。明るい時間帯に
女中さんが、
『
女中さんの後を追い、店内に入る。女中さんは躊躇のう、奥へ行ってもうた。奥へ行けるのんは、関係者だけやさかい、
営業開始前なのやろうか。誰もおらへん。入ってすぐの卓上で、これ見よがしと存在感を主張する書置き。女中さんも気付いとったはずやのに、読もうとも、
違和感あるときは、警戒すべきや。勝手に読むべき物ちゃう。気になってまうさかい、視界に
店に入ったときから、鼻を突いてくる、焦げたような
「珈琲、飲みますか?」
奥から戻った女中さんに尋ねられる。
こおひぃってなんやろうか。看板に書いたある『可否』のことやろうか。聞いたことあらへん。
「どないな飲み物なん?」
「明治時代初頭には、まだ普及していませんでしたか。苦味や酸味がある、大人の飲み物です。お子様には、まだ早いかもしれないですね。飲めなくても、恥じることはありません」
なんで『明治時代初頭』なんて言い回しするんやろうか。時代は、場所によって変わるわけやあらへん。飲まな、もっと煽られるの目に見えてるさかい、答えは決まってる。
「飲ませとぉくれやす」
「砂糖は入れますか?」
「そないな貴重な物、入れられへん」
「ではブラックですね」
「それでおたのもうします」
卓上に置かれた、墨のように漆黒の液体から、湯気が立ち昇る。見たことあらへん容器に入ってるさかい、飲み方の作法わからへん。
「お作法を教えとぉくれやす」
「取っ手を、片手の指でそっと持ち、カップを口元へ運びます」
実際に持って見せてくれはった。鼻に近付けた器から漂うとる湯気は、店内に充満しとる、鼻を刺激する臭いがする。
(この液体、飲んでも平気なんやろうか……)
口に含んだ途端、口内いっぱいに広がる強烈な苦味。女中さんがじっと見つめとるさかい、
「やっぱし、
「砂糖とミルクを入れると、飲みやすくなりますよ」
今度は入れるか尋ねたわけやなしに、漆黒の液体の中に、四角うて白い固形物と真っ白な液体を入れ、手際良うかき混ぜる。茶色う変色した液体を、改めて眼前に差し出される。
完全に苦味のうなったわけちゃうけど、飲みやすぅなっとる。
「珈琲は豆や
別の器で改めて差し出された漆黒の液体。黒いのは『
「こら、飲めしまへん」
「先程の珈琲とは違いますから、騙されたと思って飲んでみてください」
身請けされた
「さっき飲んだのと全然ちゃう。なんも入れてへんのに、口当たり優しくて、まろやかやえ」
「今飲んでもらった二杯は、全く同じ豆を使っているの。挽き方が違うこと以外は全く同じ物よ。もてなす相手をよく観察し、その時々の体調や気分に合わせ、最高の一杯を淹れることが『
今までは〝ですます調〟だった語尾が、急に『なのよ』になったことに違和感を
『
「ここ入ったとき
「そういうの、馬鹿正直と言うんですよ。言わなければ、無かったことに出来たのに」
「うちは
応答あらへん。おでこ床につけとるさかい、見ることは出来ひんけど、罰考えてるんやとはわかるえ。そやから応答あるまで、おつむを上げへんで待つ。
カタカタと、聞いたことあらへん小刻みな音が響き始める。仕置きするための下準備やろう。
「明治六年に芸妓規則が制定され、届出して
カタカタ
仕込みちゃん はゆ @33hayuu
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