第3話「プレゼント」

「う〜ん、最近の若い子ってお菓子なに食べるんだろう?」


 俺は帰り道、駅前のスーパーに寄って頭を抱えていた。

 最近の若い女の子が何のお菓子を食べるのか分からない。


 今日の朝、起こしてくれたお礼にお菓子でもあげようと思ったんだが、悩ましい。

 俺はスマホを取り出すと、検索欄に『女の子 プレゼント お菓子』と入れてみた。


「なになに? チョコレートがおすすめ?」


 チョコレートか、確かにそれは喜んでくれそうな気がする。

 そう思い、チョコレート菓子のコーナーに足を運ぶ。


「おおう……チョコレート菓子もたくさんあるのな……」


 ……ここでも悩むことになるとは。

 そうウロウロしていたら、声をかけてくる人がいた。


「先輩、何を挙動不審にしてるんですか?」


 地元の後輩ちゃんこと、新城さんだ。

 しかし、もうすっかりOLが板についているよな。

 昔はあんなにギャルだったのに……。


 俺らの代でこの片田舎に残ったのは俺と新城さんだけだった。

 みんな都会に移り住んでしまった。


 田舎といっても、都心までは電車で一時間半だ。

 みんな地元愛が足りないと思う。


「ああ、ちょっと若い子にチョコレートをあげたいんだが、何を選べばいいか分からなくてな」


 俺がそう言うと、新城さんはスッと目を細めた。


「援助交際ですか?」

「違うわい! 普通に電車で隣に座るだけだよ」


 新城さんはその言葉に首を傾げると、尋ねてきた。


「電車で隣に? そんな子と話をするんですか?」

「ああ、どうもその子もサオリちゃんが好きらしくてな。意気投合したんだ」


 すると、新城さんはふ〜んと興味を失った。

 あまり面白くなさそうな話だと思ったのだろう。


「というか、サオリってあの神谷さんが一番熱を上げている配信者でしょう?」

「……熱を上げているという言い方は誤解を生みそうだが、まあそうだな」


 頷くと、彼女はチョコレートの棚を眺めながら言った。


「しかしあんな少人数コミュニティの人と出会うなんて珍しいですね」

「だから声をかけてきたんだと思う。俺だって隣でサオリちゃんの配信を見てたら、思わず声をかけてしまうかも」


 新城さんは呆れたようにため息をつくと、チョコレートを手に取った。


「先輩から声をかけたら犯罪になりますね。警察呼ばれますよ。——はい、これが最近流行りのチョコです」


 そう言って美味しそうなチョコレートを俺に手渡してくる新城さん。


「おお、ありがとう。——確かに警察呼ばれそうだな。気をつけないと」

「そうですよ。気をつけてください。それじゃあ、また」


 そして新城さんは他のコーナーに行ってしまった。

 俺はそのチョコレートと晩飯のササミを買うと、家に帰るのだった。



   ***



 次の日の朝、俺は頭を抱えていた。

 そういえばプレゼントを渡すと言っても、いつも隣の席に座ってくるとは限らない。

 今日だって、俺の隣に座ってきてくれるとは限らないのだ。


 そのことに気が付き、俺はどうしたもんかと頭を悩ませた。

 と言っても、俺にできることはないが……。


 そう思っていたら、いつもの駅で佐伯さんが乗ってきた。

 そして、トテトテと俺の方まで寄ってきて隣に座った。


「おはようございます、神谷さん」

「ああ、おはよう佐伯さん。——昨日のお礼にチョコレートを買ったんだ」


 そう言ってカバンからチョコレートを取り出す。

 すると彼女は目を見開いた。


「お礼ですか?」

「うん。ほら、昨日起こしてくれただろ?」


 俺が言うと、彼女はなるほどと納得したように頷いた。

 そしてそのチョコを見て、嬉しそうに笑みを浮かべる。


「おっ、やっぱりこのチョコで正解だった? 最近流行りらしいじゃないか」

「まあそれもあるんですけど、神谷さんがチョココーナーで必死に悩んでるのを想像しちゃって」


 そう言われ、俺は思わずガックシと肩を落とす。


「やっぱりおっさんにチョコレートは似合わないよな」

「あっ! いいえ! そう言うことじゃなくて、可愛いなって!」

「可愛い? おっさんが?」


 俺が首を傾げると、彼女はコクコクと頷いた。

 まあお世辞として受け取っておこう。

 流石にこんなおっさんが可愛いわけないからな。


「それで……昨日の配信どうでした?」


 これ以上、この話題を広げるのはマズいと思ったのだろう。

 彼女はそう話を変えた。


「ああ、凄く良かったよな。うん、いつ見ても癒される」


 そう言うと、彼女は頬を赤らめた。

 しかしふとこちらを見てくると、こんな質問をしてくる。


「というか、神谷さんってコメントしてます?」

「いや、俺は一回しかコメントしたことないよ」

「え? そうなんです? 結構な古参だと言ってましたけど……」


 まあ、俺は別にサオリちゃんに自分の存在を知ってもらいたいとは思えないからな。

 そのことを伝えると、彼女はにっこりと笑ってこう言った。


「でも、コメントしてあげると喜ぶと思いますよ?」

「そういうものか?」

「そういうものです」


 俺が首を傾げると、彼女はしっかりと断言するように言った。

 う〜ん、そう言うことなら、今日の夜はコメントしてみるか。


 そんなふうに電車に揺られながら、俺たちは他愛もない雑談をするのだった。

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