第10話「ゴールデンウィーク」
「そろそろゴールデンウィークですね」
朝、いつも通り隣に座ってきた佐伯さんがそう言った。
俺はその言葉に思わずため息をこぼす。
「はあ……確かにそうだよな」
「どうしたんですか? いきなりため息なんかついて。華の五連休ですよß」
心配そうにこちらの顔を覗き込んでくる佐伯さん。
しかし、最近ちょっと距離が近くなってきた気がするんだよな。
彼女もだんだんと心を許してきてくれたのだと思う。
それは嬉しいことなんだが、もう少し危機感を持って欲しいところだ。
俺が悪い奴だったらどうするつもりなのか。
別に俺は悪い奴じゃないつもりだが、それでも無防備すぎる気がする。
まあともかく。
俺は佐伯さんの問いにさりげなく距離をとりつつ答える。
「いやね、ゴールデンウィークといっても仕事をしなきゃならないから」
「あー……なるほど。それはご愁傷様です」
心から同情するように佐伯さんは言う。
ゴールデンウィーク全部が潰れるわけじゃないが、半分くらいは仕事が入っている。
何でこんなことになったのか。
つらい……。
俺はこの話をこれ以上すると心に傷を負いそうだったので、佐伯さんにこう尋ねる。
「それで、佐伯さんはゴールデンウィークに予定は?」
「……私は逆に何もないですね」
「あれ。大学の友達とかと出かけたりしないの?」
そう聞くと、彼女は俯き寂しそうに微笑みながら言った。
「私、友達作りが苦手なので。大学に入ったのはいいものの、まだ友達ができてないんですよ」
「なるほどなぁ……。じゃあ昼とか夜ご飯とかも一人で食べてる感じ?」
「いえ、一緒に食べる女の子はいるんですけど……一緒に出かける仲じゃなくて」
別に佐伯さんならすぐに友達くらいできそうだけどな。
しかし、いきなり大学に放り出されて、何もないところから友達作るのは大変だ。
彼女はあまり自分から遊びに誘えなさそうな感じだし。
俺に声をかけてきた時は例外だったのだろうけど。
「ふむ、佐伯さんは距離の詰め方が分からない感じか」
「そうですね……。話すくらいにはなれるんですけど、一緒に遊びに行くってなると……」
難しそうな表情で佐伯さんは答えた。
と言っても、俺も人付き合いが得意な方じゃない。
アドバイスとかも特にできそうにない。
「どうすればいいでしょうか。私も一緒に出かける女の子の友達が欲しいです」
切実そうに佐伯さんが言った。
それなら……。
新城さんはコミュ力の塊だ。
また今度、彼女と会った時にでも聞いてみるか。
まあ、連絡を取り合っているわけでもないし、いつ会えるか分からないけど。
ゴールデンウィークまで後一週間。
それまでに佐伯さんがその話せる女の子と一緒に出かけるまでに仲を進展できるかどうか。
俺も少しくらい力を貸してあげたいとか、何となく思うのだった。
ただのおっさんの俺は、毎日電車で隣に座ってくる女子大生が推し配信者だと気がつかない。 AteRa @Ate_Ra
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