第8話「料理配信」
今夜のサオリちゃんの配信はいつものゲーム配信ではなく、久しぶりに料理配信だった。
まあ料理配信といってもカメラがつくわけではなく、音だけだが。
カチャカチャと準備をしている音が流れる。
視聴者数が少ないから、コメント数ももちろん少ない。
雑談するほどのコメントがないから、料理配信なのだろう。
「えー、今日はハンバーグを作りたいと思います」
――いいね。
――サオリちゃんのハンバーグ食べてみたい。
チラホラとそんなコメントが流れていく。
それに対してサオリちゃんも答えていく。
「私のハンバーグは高いですよ~。そう簡単に食べられるものではありません!」
――そらそう。
――一千万までなら出す。
「い、一千万!? そ、それでもまだ足りないですね~」
サオリちゃんはコメントに驚きの声を上げるが、まだ足りないらしい。
俺はそんなやり取りをボンヤリと見ていた。
うーん、やっぱりあたふたしているサオリちゃんも癒やしだよな。
「明日のお弁当の分も含めていっぱい焼きますよ~」
そう言いながら、じゅうっと肉の焼ける音が響いてくる。
サオリちゃんの作ったハンバーグはさぞ美味しいんだろうな。
そんなことを思いながら、サオリの配信を見続けるのだった。
***
「おはようございます、神谷さん」
「ああ、おはよう佐伯さん」
朝、電車の中でいつもの挨拶を交わす。
彼女はいつも通り隣に座ってくると、どういうわけかもじもじし始めた。
俺が首を傾げていると、彼女は意を決したように言う。
「あの……神谷さんってお昼とかどうしてますか?」
「お昼? 普通に社内の食堂とか、たまに外に食べに出るけど」
「そっ、そうですか……」
俺の言葉に佐伯さんは緊張したような表情をする。
それからゴソゴソと自分の鞄を漁ると、一つの包みを取り出した。
「あっ、あの! お弁当を作ってみたので是非食べてください!」
「おお~! それは嬉しい! ありがとう」
思わず口元がにやけながら俺はその包みを受け取った。
「ちょっと中を見てみてもいい?」
「そ、それは後でのお楽しみにしてください」
恥ずかしそうに佐伯さんは言った。
「そっか。そうだよな。分かった、後での楽しみにしておく」
「あまり期待だけはしないでくださいね……」
耳まで真っ赤にしてうつむいて言う佐伯さんに思わず笑みがこぼれる。
しかしまたお返ししなければならないことが増えてしまった。
今度はどんなお返しにしようかな。
そんなことを考えながら俺はぼんやりと佐伯さんと雑談をするのだった。
***
「先輩。その弁当なんすか?」
後輩の桜井君がそう尋ねてくる。
俺はにやりと笑みを浮かべて言った。
「実は作ってもらったんだ」
「誰からですか!? 先輩、結婚しないっすよね!」
「ふふふ、誰でもいいだろう~」
俺はそういいながら弁当のふたを開けた。
ハンバーグ弁当だった。
ハンバーグ……昨日、サオリちゃんもハンバーグを作っていたよな……。
もしかして、佐伯さんって――。
作るモノまで影響されるとは……やっぱり佐伯さんはサオリちゃんがすごく好きなんだな!
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