第2話「睡眠不足」

 昨日のサオリちゃんの配信良かったなぁ〜。

 でも長時間配信すぎて、全然寝れなかった……。

 おかげですっかり寝不足である。


 俺はぼんやりとそう考えながら電車に乗っていた。

 すると隣に少女が座ってくるのだが——。


「おはようございます、神谷さん」

「あ、ああ。おはよう、佐伯さん」


 昨日、隣に座ってきた佐伯さんだった。

 彼女は眠たそうな目を擦りながらこちらを見た。


「眠たそうですね、神谷さん。大丈夫ですか?」

「そう言う佐伯さんも眠たそうだけど……って、佐伯さんもサオリの配信を見ていたのか」


 そう言うと、彼女は視線を逸らしながら口を開いた。


「は、はい。サオリちゃんのせいで、全然眠れなかったです」

「そうだよな〜。長時間配信だったもんな〜」


 俺はそう言いながら思いきり欠伸をする。

 ……流石に眠い。


 佐伯さんはうとうとしている俺に、自分の肩をポンポンと叩いて言った。


「肩、貸しましょうか?」

「えっ!? い、いや、いいよ! ほら、加齢臭がするかもしれないし!」


 彼女の言葉に俺は慌てふためく。

 そんな俺を見て、佐伯さんは小さく笑った。


「ふふっ、気にしてるんですね、加齢臭」

「……もしかして俺、揶揄われてる?」


 尋ねると、彼女はあざとく首を傾げた。


「さて、どうでしょう?」


 ……絶対揶揄ってきてるよね、これ。

 思わずため息をこぼして俺は言った。


「おっさんを揶揄っても面白くないぞ」

「いいえ、意外と面白いですよ。神谷さんの反応」


 クスクスと笑いながら言う佐伯さん。

 ……まあ、彼女が楽しんでくれるならいいか。


 しかし俺は電車の揺れで増幅された眠気に負けて、いつの間にか眠ってしまっているのだった。



   ***



「——さん、神谷さん。そろそろ降りる駅なんじゃないですか?」


 そんな声が聞こえてくる。

 俺が目を覚ますと、あろうことか佐伯さんの肩に頭を乗せて眠っていた。


「あっ……! ご、ごめん! 嫌だったよね!」

「いいえ、全然嫌じゃないですよ。それよりももう駅に着いちゃいますよ」


 電車のディスプレイを見てみると、あと一分で次の駅に着くらしい。

 危ない、もう少しで乗り過ごすところだった。


「ありがとう、佐伯さん。助かったよ」

「大丈夫ですよ、私も神谷さんには元気付けられてますから。それに寝顔も可愛かったですし」


 ……俺、佐伯さんに元気を与えたことあったっけ?

 と言うかおっさんの寝顔が可愛いって、変な趣味をしているらしい。


 まあともかく——。

 明日はお礼に何かお菓子でも買ってあげるか。


 そんなことを考えていると、電車がホームに入り、俺は慌てて立ち上がり電車を降りるのだった。

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