バトンタッチ

大隅 スミヲ

バトンタッチ

「なんで30日ないねん」

「そんなこと言われても、わたしだって知らないよ」

「うるう年ぐらい30日にしたら、ええやん」

 毎年、彼女はわたしの家にやってきて同じことを言う。

 わたしだって好きでうるう年を迎えているわけではないのだ。


 弥生やよいとわたしは幼なじみだった。

 小学生の時に父親の仕事で関西方面へ引っ越した弥生は、高校生になって再会したときには完全に関西弁の使い手となっていた。


「なあ、ひとりだけ日数少ないのって気持ち悪くないん」

「そんなこと言われても、わたしは生まれた時からそんな感じだし」

「そうだ、あたしのを1日あげようか。31日あるし。そうすれば、ふたりとも30日になるやん」

「え、いらないよ。別に困ってないし」

「そやかて、うるう年くらいは30日にしたら、ええやろ」

「ダメダメ。逆にうるう年だけ30日になったら、いつもの28日が少なく感じちゃうし」

 わたしは顔の前で手を振りながら、弥生の申し出を断る。


 4年に一度やってくる29日の存在ですら持て余しているというのに、毎年30日あったりしたら、どうしていいのかわからなくなっちゃうというのが、わたしの本音だった。


「でも、すごいよね、弥生は」

「え、何が?」

「だって、毎年31日もあるんだもん。本当にすごいよ」

「えー、そんなことないって。なんやかんやで31日なんてあっという間に終わっちゃうから」

 謙遜した様子で弥生はいう。しかし、どこか誇らしげだ。


「そろそろ、引き継ぎの時間だね」

「そやな。一ヶ月間、ご苦労さまでした」

 そういって、わたしと弥生はバトンタッチをする。

 2月28日23時59分59秒。


 これでわたしの今年の役目は終わった。


「また来年ね」

 弥生に別れの挨拶をすると、わたしはこたつに潜り込んで目を閉じる。


 こうして、年に一度の『二月と三月の会議』で如月の担当は終わり、弥生の担当する三月がはじまるのだった。

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バトンタッチ 大隅 スミヲ @smee

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