第五破天荒! 拳で語れよ漢なら!!


「タイマンだ!! リガルド!!」


 薔薇園(ステージ!)に響く怒声と共に! トラエスタは刀剣(エモノ!)を放り投げた!!

 素手喧嘩(ステゴロ!)上等の乙女仕草を前にして! いつも笑顔のリガルドは!! ……流石に溜息を漏らさずにいられなかった。


「……トラエスタ様。男児が女子に手を上げるなど、そんなこと出来る筈がないでしょう」


 と言うよりも。

 トラエスタの父・ラヴィス帝国皇帝はこの大陸の覇者。それが長を務める多国同盟の一員であるリガルド王子に、その娘をぶん殴れるはずなどない。もし仮にそんな事をすれば、国際問題間違いなしだ。

 これが呆れずにいられるだろうか。今日までも馬鹿な娘だとは思っていたが、まさかこれほどだったとは……。


「ッセェゾゴラァ! ビビッテンジャネーゾコラァ!?」


 呆れるリガルドの心中を察する様子もなく、トラエスタはリガルドへにじり寄る。そうして不意に突き出された小さな拳は、躊躇なくリガルドの顔面を狙い撃つ。……がしかし、幼いトラエスタの動きは鈍く遅く、見てから避けることなど造作もなかった。


「ックソテメェ!? 避けんじゃねぇぞオラァ!? ぶん殴れねぇだろうがよぉッ!!」


 ムキになって突き出された大ぶりの拳を優しく掴み、リガルドは柔和な微笑みを貼り付ける。


「いやぁお見事ですトラエスタ樣。……しかしどうか御安心を。このリガルド、婚約者をお守りする為の訓練を日頃から積んでおります」


 ――ですからトラエスタ樣、貴方がそのような鍛錬に励む必要は御座いませんよ。

 ……そう続けようとしたリガルドの言葉はしかし! 密着したトラエスタの一撃により!! 粉々に砕かれた!!


「ッセェゾゴラアアアアアアアアア!!」


 油断しきった下顎を見事貫くトラエスタの一撃(昇竜アッパー!)により!! リガルドの体が宙を舞う!!

 ――マジで死んだかもしれんねコレは!!

 お付きの者がそう絶句する程の一撃に吹っ飛び倒れ伏したリガルドは!? しかし……!?


「……驚いたな。本当に、お強い」


 庭園の芝の上! むくりと起き上がったリガルドは! 骨の一本もやっていない!?

 これは奇跡か何かの魔法か!? ……いや!? これは単なるフィジカルだ!?

 王家に伝わる武術を日々学ぶリガルドは! 自ら後ろへ飛び込んで! トラエスタの必殺の一撃を受け流したのだッ!! ……末恐ろしい漢!!


「リガルド樣!? トラエスタ様がとんだ御無礼を!?」


 駆け寄るトラエスタ家の者に優しく微笑み、リガルドは何を気にした様子もなく立ち上がった。


「私の事は大丈夫です。それよりも、今は彼女の事を心配された方が良いのでは?」


 リガルドの見下ろすその先には、うずくまり悶絶するトラエスタの姿があった。

 先程渾身の一撃を放った際、ぐにゃりと挫いた手首を抑えるトラエスタの目から、一筋の涙が溢れた。


「んでだよチクショウ……! なんであたしはこんなによえーんだよ……! 何でお前は、ここまでされて笑ってられんだよ……!」


 怒りと屈辱に震えるトラエスタはやがて、取り落とした剣を握りしめた。


「ぶっ殺してやる……ッ!!」

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