夜露死苦お願い痛刺ますわッ!! 編

第一破天荒! 雲間の隙、か細き雷鳴!


 七歳児にしては随分と大人びたリガルド王子が帰郷したのはつい先日のことだったが、その時の彼の様子はどこかおかしかった。


「私がここへ居ない間、どうかこの馬を私だと思って欲しい」


 そう言いリガルド王子が残していった黒い馬に『乱暴流義仁(ランボルギーニ!)號』と名付けた姉のトラエスタも随分とおかしな人だろうが、それはまぁいつもの事だろう。

 元来飽きっぽく多動な姉は、せっかく婚約者から賜った大事な馬に朝の餌やりするのを良く忘れる。「コイツの面倒はあたしが見る」。そう宣言したくせにである。

 だから弟であるシャルルは近頃、早起きして馬の様子を見てやっているというわけだった。

 シャルルはもともと動物好きだが、それ以上に姉のトラエスタを慕っていた。自分と違いいつも自信に満ちているトラエスタには、あまり恥をかいてほしくない。


「おはよう、ランボルギーニ」


 シャルル・シス・ラヴィルス。トラエスタとは似ても似つかぬ繊細で儚げな双子の弟は馬の餌やりを終え、ブラシで黒鹿毛を撫でいるところだった。無論皇帝の子であるシャルルが馬小屋で働くなど、家臣の者が口を出さぬ訳はない。ないがしかし、皆口出しに留まるのみだ。

「……シャルル様がそうおっしゃるのなら」

 そう言い離れていく家臣たちは皆、シャルルの内に秘められた魔力を恐れていた。

 ふとした拍子に顕現する、その身に宿る強い魔力。幼い王子の未熟な精神は未だそれを御すことが出来ず、意図せず周囲に放出する。

 パチリ、朝露の中に顕現した紫電の魔光が、黒馬の尾に掻き消された。


「……お前は鈍感だなあランボルギーニ」


 触れただけで「イテッ」と唸るくらいの電流をまるで気にした様子もない黒馬に向かい微笑むこと暫し。のんびりと過ぎる厩の雰囲気には不似合いな争乱が、シャルルの背後より響き始めていた。

「お待ちなさいトラエスタ!! 仮にも皇女ともあろう者がそのようなっ!! そのようなはしたない格好をっ!!」

「うるせええええクソババアーーー!! 覇ッ! 覇ッ! 覇ァアアア!!」

 朝の稽古に励む姉上と、それをやめさせようとする母君。そしてその二人を無言で追いかける侍女達の一団。少しばかり異様な迫力を持つその軍勢はシャルルの居る馬小屋の前まで辿り着くと、トラエスタを先頭に立ち止まった。

「おはようございます、トラエスタお姉様」

 のんびりとした朝のひとときをぶち壊しにされようが、シャルルは微笑み頭を下げる。胸に手を当て90度の角度に体を折り曲げるその挨拶は、正にロイヤルといった品格を漂わせていた。

「オウ、シャルル! 朝からゴクローサン」

 一方それとは対象的に、片手を上げウィンクまでしてみせたトラエスタの乙女仕草を、たった今追いついた母君がぶっ叩いて矯正する。

「トラエスタッ!! なんですその品のない御挨拶は!!」

「……っセェなぁこのオバハン」

「『お母様』でしょうトラエスタ!?」

 バシバシと背中を叩かれ目を白黒させるトラエスタは暫し母上と口汚い口論を交わしていたが、やがてその場から逃げ出すのだった。近頃のトラエスタは、まるで渡り鳥のように一つ所に留まらない。

「シャルル! 昼になったら乱暴流義仁に乗って遊ぼうぜ!」

「ダメに決まっているでしょうトラエスタ! 男子おのこならいざ知らず、皇女が馬遊びなど!」

「絶対だぞ、シャルルー!」

 ひどく一方的にそう告げると、姉のトラエスタはまた駆け出す。シャルルは控え目に手を振りながら、その背中を見守り続ける。そして共に馬小屋に取り残された母君は、ただ深いため息を吐くのだった。

「全くあの子はどうしてしまったと言うの……? リガルド王子に会えばすぐ元に戻ると思っていたけれど、日に日に暴れぶりがひどくなって……」

 わざとらしく呟き萎れ、母君はシャルルを見上げた。シャルルは少しばかり嫌な予感がよぎったが、おくびにも出さず微笑みを返す。

「……シャルル。リガルド王子が倒された今、もう頼れるのは貴方だけよ」

「ぼくなどに出来ることがあるのでしたら、何でも言いつけて下さい! お母様!」

「良い心がけですシャルル、我が子たるものそうでなければね」

 満面の笑みで手招きする母親の傍に、シャルルはそっと耳を寄せた。

「……出来るでしょうシャルル? だってあなたは、トラエスタの双子の弟なのだから」

 母君に何事かを耳打ちされたシャルルは、困り果てながらも頷いた。

「お母様がそう言うのなら……!」


 皇女トラエスタの行く末を案じる母の親心と、

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『覇』を以て破滅フラグを破壊し尽くすドヤンキー『転』生『皇』女 ―HA・TEN・KOU― 矢尾かおる @tip-tune-8bit

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