『覇』を以て破滅フラグを破壊し尽くすドヤンキー『転』生『皇』女 ―HA・TEN・KOU―

矢尾かおる

覇・転・皇!!

第一破天荒! 紅く染まる乙女心!!


 修羅の街・北九州は今正に!!

 血潮がごとき夕焼けに染まろうとしていた!!


 ――ブロロロオオオンン!?

 ――パラリラパラリラァアア!?

 ――パァァァァアン!? ブオンブォンボオオオン!?


 日の暮れかけた河川敷に騒音を撒き散らす改造バイクの群れは!! 全てが見事な警告色(タイガーカラー!)!!

 短ランにボンタン!! パンチパーマにリーゼント!! 古き良き昭和ヤンキースタイルで自慢の愛車(オンナ!)に跨る彼らこそが!!

 九州全土を股にかける伝説の暴走族(ゾク!)!! 仇襲連合の面々である!!


 ――ッケンナオラァー!?

 ――アー?ヤンノカオラボゲェ!?

 ――ブッチャースゾコラァ!?


 仇襲連合構成員が発するその恐ろしき怒号は!! 無数のハンドル(オニハン!)に取り囲まれる、小さな影へと向けられていた!! 私刑(リンチ!)の予感……!!


寅子トラコォ!! テメェ一体どういう了見だゴルァアアアアア~~!?」


 連合副総長の怒声と共に! ヘッドライトが闇を照らした!!

 斯くして旋回する族の群れ、その中心に現れたのは! くるぶしまである黒のセーラー!! ステッカーだらけの革鞄!! 髪はプリンな金髪の!! 典型的なSUKE・BANスタイル!!

 まばゆき白光の群れに照らされるその女は!! 筑豊ちくほう寅子なるその女は!!

 近隣諸校より集まった歴戦の不良(ツワモノ!)共に囲まれながら!! しかし毅然と顎を上げた!!


「……言い訳なんかする気はねぇよ。それに、テメェらとのションベンくせぇ思い出話もな」


 ショショショショ、ションベンくせぇ!?

 ゾクと言えども十代(ティーンエイジ!)の!! 体臭気にするお年頃の!! 仇襲連合の面々は!! 俄に色めき殺気立つ!!

 ――テメゴラァ!! ナメテンノカオラァ!? ブッチャースゾコラァ!?

 触れただけで血の出そうな鋭い視線(メンチ!)! 渦巻く無数の殺意に晒されながら!! 寅子はカバンを放り投げた!!!!

 素手喧嘩(ステゴロ!)上等を表わすその豪胆な仕草と共に!! 鋭い啖呵が火を吹いた!!


「文句があんならよぉ。……全員まとめてかかってこいオラァアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 斯くして幕を開けた河川敷の死闘は!! それは凄惨を極めきった!!

 2月も半ばの夕暮れはあっという間に沈みきり!! ヤッテヤンヨオラァ! メテンジャネェゾコラァ!? ザッケンナゴラァ!! ……等の威勢良き怒声の群れは!! いつか死んだよう静まり返っていた!!

 かくして紅い血で染め上げられた北九州某所の河川敷に!! 最後唯一人立っていた女!!

 仇襲連合初代総長・筑豊寅子はほうぼうの体で! その鋭い刃の眼をかつての仲間(ダチコウ!)へ向け!! 最後こう言い放った!!


「あたしことぉ! 仇襲連合初代総長・筑豊寅子はァ! 今日を以て連合の解散を宣言する!!」


 寒空に響く咆哮が!! 敗れた不良達の漢泣きを誘う!!

 それ程までに衝撃的!! ワルの聖地・北九州をつい先日制覇したばかりの仇襲連合構成員達は!! 拳一つでこの場を制した女番長(スケバン!)を!! ただ恨めしげに睨むより術がなかった!!


「ンでだよ姐御ォ!! 俺達に終わり(ピリオド!)はねぇって、あの夜そういったじゃねぇかよぉ……!」


 巨漢の副総長・剛田にそう縋られ! 寅子はそっと目を伏せた!! シュン……。


「……ワリィな剛田、あたしには守りたいモンが出来ちまった」


 瞳から流れ出る汗を拭いながら! 寅子はそっと河原を登る!!

 自慢の愛車(オトコ!)に目もくれず! 草むらに止めてあった真新しい原付き(無改造のスーパーカブ!)に跨った!! 

 パタパタと可愛らしいエンジン音が響くと共に!! 日暮れの闇へ寅子は消える!!


「チキショオオオオオオッ!! ンでだよ姐御オオオオオオオオオ!!!!!」


 寂しがりの不良共の咆哮を背に受けながら!!

 ピリオドの向こう側へ進み始めた寅子の背は!! 少しづつ遠くなる!!

 法定速度で進むその小さな影は!! 河川敷沿いの住宅街を通り抜け!!

 やがて学業・就業を終えた人で賑わう駅周辺まで辿り着き!! 至極怪しげな店の前に停車したッ!!

 瞬きもせずに!! 前だけを向く寅子の辿り着いたその場所とは!?


 ……そう!! アニメイツ!! 小倉店である!!


「……さーせん、ゲームの予約してた筑豊寅子です。……あ、はい会員証あります。……あ、そっす、『美王子♥恋迷宮(ビューティープリンス♥ラヴィリンス!!)・NewLoveRinth』です。……あぁそうソレソレ。……オイテメェゴラァアアアアア!? これ特典の『鬼畜王子が寝かしつけてくれる魅惑の添い寝ボイス』がついてねぇじゃ……!! ……あ、ゲームの中に入ってるんすね、マジさーせんした」


 斯くしてなけなしの万札を手渡した寅子は!!

 店員から受け取ったその真っ青な袋を!! 大事に大事に抱き締めた!!

 そのまま店外へと向かう寅子の顔は!! もう暴走族のリーダーではない!!

 完全無欠の!! 乙女である!!


(……人間変わるもんだな、守りたいモノが出来ると)

 

 寅子が小袋からそっと取り出し確認したるそのゲームのパッケージは!! 一人の少女が美男子に取り囲まれているという至極物騒なもの!!

 なんだというのだ!? この不穏な絵面は!? 集団暴行か!? 拉致監禁か!? 大人のお店(ホストクラブ!)なのか!? ……いや、違う!?


 そうこれは!? 乙女ゲーだ!?

 

 ――さてさてどの美王子(ビューティープリンス!!)から攻略してやりますかねぇ……w

 袋の中のパッケージを眺めている内スケベオヤジィのようにゆるんだ寅子の顔は! しかし数瞬後凍りつく!!


 寅子と同じ店から出た一人の少女!! 黒髪短髪・大人しそうな眼鏡を掛けたその女は!! 寅子と同じようスケベェな顔で青い袋の中を覗きながら!! フワフワと公道を歩いている!!

 そこへ猛然と迫る大型トラックに! 気がつく様子もなくである!!

 クラクションが鳴り響き!! か弱き腐女子が悲鳴を上げる!! 取り落としたアニメイツのショッパーから!! 『美王子♡恋迷宮』がこぼれ落ちたッ!?


「……!!」

 

 気づけば寅子は反射的に!! 同じ王子を愛する同志の許へ!! 猛然と駆け出していた……!!


「 覇 ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ッ ! ! ! ! 」


 今正に死の淵に立つ乙女ゲーの同志(ダチ!)を守るために!! 寅子は正拳突きを繰り出した!!

 父より学んだ古武道術を! 寅子独自の根性論により昇華させたKENKAアーツ!!

 鬼気迫るその一撃は!! 見ず知らずの乙女仲間を見事車線上から吹き飛ばした!! 肋の一本や二本はやったかも知れぬが!! 大型トラックに轢かれるよりはマシであろうッ!!

 かくして一人だけトラックの車線上に取り残された筑豊寅子は!! 絶体絶命の境地に立ち!! しかし不敵に微笑むのだった!!

 筑豊流古武術は最強!! それを更に昇華させたKENKAアーツは正に無敵!!!!

 そう信じてやまぬ寅子は!! 迫り来る大型トラックを粉砕すべく!! 渾身の拳を更に突き出す!!


「 覇 ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ッ ! ! ! ! ! ……!?(絶命!)」


 かくして筑豊寅子という女の人生は!! 大型トラックに勝負を挑み幕を下ろしたのだった!!


 ……破天荒!!

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