パーツ
梅田 乙矢
パーツ
またこの時期がやってきた。
本当に嫌な時期だ。
私は帰宅しながら激しい目のかゆみ、止まらない鼻水と戦っていた。
今年は例年に比べて花粉の飛散量が多い気がする。
薬を飲んでも全く効かない。
とにかく早く家に帰ろう。
私は歩く速度をあげた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
母がリビングから出てきて声をかける。
「あら、あなたひどい顔ね。
手を洗ってから鼻うがいと目の洗浄したほうがいいわよ」
「うん、そうする」
私は急いで洗面所へ向かい手を綺麗に
洗った。
そして生理食塩水を半透明なカップに注ぎ、
目玉を
顔に空いた二つの真っ黒な空洞へと目玉を
戻し、次に鼻も取り外して鼻の中も生理食塩水で洗浄した。
骨が見えて鼻の穴だけが二つある顔に綺麗になった鼻を取り付ける。
やっとスッキリした。
タオルで顔を拭きながらリビングへ向かう。
「今年は花粉がひどくて困っちゃうよ」
「今年はいつもよりすごく多いんだって。
お母さんも参っちゃうわよ〜」
「生理食塩水の買い置きあったけ?」
「あら、どうだったかしら…
あんた買ってきてよ」
「今帰ってきて洗浄したのに?」
「また洗えばいいじゃない」
私はブツブツ文句を言ったが、母は動く気配がない。
仕方がない。買いに行こう。
外を歩いているといたるところで交渉している場面に出くわす。
「それじゃ、ワシの肺とあんたの肺を交換してもいいんだね?」
おじいさんが高校生の男の子と話している。
「はい、いいですよ。
僕は死にたいんです」
「本当にいいのかい…?ありがとう…」
と言って骨ばった胸の皮をビロンと広げた。
おじいさんの肺は真っ黒で明らかに癌であることが分かる。
その話を聞いていた通りすがりのお兄さんが止めに入った。
「ダメですよ。
自殺志願者に病気になった臓器を渡すことは重罪ですよ?
おじいさんも君も知ってるでしょう?」
なかなか交渉がうまくいかないらしい。
自殺を手助けする臓器交換は法律で禁止されてるから仕方ないのだけれど。
向かい側の道では綺麗なお姉さんと一般的な顔立ちのお姉さんが話している。
「もしよかったら私の顔とあなたの顔を交換してくれない?」
「えっ?こんな平凡な顔でいいんですか?」
「平凡なんかじゃないわ。
その顔がいいの。お願い」
「それじゃ…」
そう言ってお互いの顔をベロンと剥がす。
筋肉や神経が剥き出しになった人体模型の顔が二人。
交渉は成立したようだ。
今度は学生服を着た男の子が何やら話して
いるのが見えた。
「僕の脳みそと君の脳みそを交換しない?」
「どうして?
だって、有名な進学校に通ってるんでしょ?
僕は普通の公立高校ですよ…」
「進学校に通ってるとかは関係ないんだ。
僕は柔軟な考え方ができなくて視野が狭い気がして…。
君は公立高校と言ってもデザインとか勉強する学科なんでしょ?
だから柔軟な思考するのかなと思って」
「…まあ、僕は別に交換してもいいですけど…」
「本当に?ありがとう!」
お互いの頭蓋骨をパカッと開けると
脳を交換したあと進学校に通っている
男の子が
「そうそう、もしそっちの脳みそが嫌になったらいつでも連絡して。
その時は元に戻そう」
と言って国が国民一人一人に割り当てているIDカードを渡していた。
こちらもうまくいったようだ。
周りの人達を見ながら歩いていると
「ちょっといい?」
と声をかけられた。
「はい?」
話しかけてきた人物は20代の女性だった。
「あなたの目、素敵ね。
交換しない?」
その言葉にハッとした。
私の目は生まれつき片方だけが紫色の瞳
なのだ。
いつもは黒のカラコンをして隠しているのだが、さっき目を洗浄したばかりでうっかり
コンタクトをはめてくるのを忘れてしまった。
「ごめんなさい、この瞳はある人から
嘘をついてごまかすが、相手は諦めない。
「いいじゃない。
飽きたら返すから。あなたのID教えて」
何度も断ったがしつこく食い下がってきた。
私はその場から逃げ出したのだが、女性は
追いかけてくる。
最近パーツ交換について世間で問題になっている話が頭をかすめた。
複数人で襲かかり無理やりパーツを奪っていくというものだ。
私は横道に入り建物の影に隠れた。
女性は見失ったようで悔しそうな顔をして辺りを見回していたが、諦めて帰っていったようだ。
一安心してから私はバックに入れてある瓶を取り出した。
義眼が溶液に浮かんでいる。
万が一の為にいつもバックに入れていた。
私は紫の目を取り出し、義眼を
義眼はガラスでできているからものを見ることができない。
片目しか見えないから不便だ…。
いったん家に帰ろう。
途中で誰かと顔のパーツを交換しないといけない。
あの女性に顔が知れてしまっている。
また見つかったときが
買い物は明日にしよう。
立ち上がって帰ろうとすると後ろの方で男性の声が聞こえた。
「ねぇ、君、僕の目と交換しない?」
ビクッとして恐る恐る振り返る。
だが、男性は背中を向け誰かと喋っている。
自分ではなかったことにホッとしたものの
話している相手の姿が見えない。
一体誰と話しているのだろう…
ソッと覗き込んでみる。
「僕も綺麗な瞳には憧れるけど、嫌がっている人を追いかけ回して無理やり取るのは嫌なんだ。
だからどうだろう?
君がよければ、なんだけど…」
「ニャ~」
彼が話しているのは片目が美しいピンク色の猫だった…。
パーツ 梅田 乙矢 @otoya_umeda
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