第9話:惑星番外地 其の1

 ポコリーノが身体に付いた黴を心配して身体を洗う事を主張したので、三人は途中で見つけた小川で小休止する事にした。


 気持ちよさそうに身体を洗うポコリーノに誘われ、ベラマッチャも川に入り、水浴びをした。お蔭で黴の匂いも取れ、スッキリとした気分となった。


「フウゥ! さっぱりしたぜ!」


「ヘンタイロス君、君も身体を洗った方がいいと思うが? 身体中が尿まみれじゃないのかね?」


「イヤよんっ! 人前で裸にさせる気なのんっ!」


「ヘッヘッヘ……男同士、裸の付き合いじゃねえか。入ってこいよ」


 ヘンタイロスは二人の誘いを断り、川端でしゃがみ込んでいる。身体に尿が付いてしまい、黴と死肉の匂いと混じり合って悪臭を放っているが、裸になるよりはマシなのでであろう。


 二人の男の裸を横目で視姦していたヘンタイロスは、ベラマッチャがマワシを付けるのを見て、出会った時から疑問に思っていた事を尋ねてみた。


「ねぇんベラマッチャ、凄くマワシが余ってるのに、何で短くしないのん?」


「むぅ、いい質問だ、ヘンタイロス君。古来よりマワシの長さは決まっており、短くしてはいけないとされている。僕は身体が小さく、かなりマワシが余ってしまうが決して切ってはいけないのだ。余り方が激しいため足元が見えなくなってしまうが、この黄金のマワシをすると気合が入る。スモウ道に精進する者として、僕の代で長い伝統を変えてしまう訳にいかんだろう」


「ふぅうん。それで余らせておくのねん」


「スモウって奴は面倒なんだな。俺には無理だぜ。我流無形の木人拳が性に合ってらあ」


 たしかにポコリーノには無理だろう。ポコリーノの動きはカクカクとしており、尚且つ人間並に素早い。素早いが、カクカクしていては、足元が見えなくなるマワシをしてしまえば転んでしまう。性格的にも、他人に教えを請うタイプではない。


 水浴びを終え服を着たベラマッチャとポコリーノは、ヘンタイロスの背に荷物を括り付けて出発した。


 突然の侵入者への警告か、鬱蒼とした森を進む三人に得体の知れない獣の鳴き声が時たま浴びせられる。


 三人は森の中で一夜を過ごす事に決め、寝られそうな場所を探した。


 ヘンタイロスは枯木を集めて火を熾し、鼻歌を歌いながら夕食の支度に取り掛かり、ベラマッチャとポコリーノはサンダーランド強制収容所についての話をしていた。


「ベラマッチャ、刑務所の暮らしってやつを聞いた事があるか? 俺はポロスで、刑務所から出てきた奴の話を聞いた事がある。チンケなスリ師だったが、刑務所での生活を話てくれた。新入りはまず、入所する時に素っ裸にされて、ケツの穴の中まで見せなきゃならないらしい。検査棒ってやつを穴の中に入れて、何か隠してないか検査するんだ。隠してるのがバレたら、その場で拷問だそうだ」


「ケツの穴の中までかね。念の入った事だな」


「冗談じゃないわよん! アンタ達は平気でもワタシは御免だわん!」


 ヘンタイロスが出来たての料理を運びながら口を挟んできた。ヘンタイロスの言葉に、ポコリーノは頭を振る。


「そうはいかねえぜ。逆らう奴は袋叩きにされて、独房に入れられちまうそうだ。とにかく刑務所じゃあ、看守の言う事には絶対服従、口答えすら許されないらしい。サンダーランド強制収容所じゃあ尚更だろう」


 三人は刑務所の暮らしについて議論しながら、夕食を済ませて床についた。


 その夜、ヘンタイロスは刑務所という未知の世界への不安から、ポコリーノのパンツを被ったまま、夜遅くまで寝つく事ができなかった。


 翌朝、目を覚ましたベラマッチャは、ヘンタイロスとポコリーノを揺り起こし、軽い朝食を済ませて出発した。


 森の中を進む三人は無言であった。サンダーランド強制収容所という監獄が、三人を不安にさせているのだろうか。


 太陽が真上に来た頃、三人は森から抜け出た。


 正面には、長く高い石の塀が見える。塀に沿って歩いて行き、角の所から向こうを覗くと、門のような物が見える。


「諸君、どうやらあの門が入口の様だな」


「でも、どうやって忍び込むのん?」


「忍び込む? ゲルゲリー公から、所長への手紙を貰ってあるんだ。所長に面会して、シャザーン卿を出して貰えば終わりだろ?」


「むぅ、しかし出してくれとは言えんだろう?」


 三者三様の意見を出し合った結果、夜になったら刑務所に忍び込み、シャザーン卿を探す事になった。見つかったらゲルゲリーの手紙を持ち、所長への面会を求めればいい。


 三人は森へ戻り、塀を越えるための梯子を作る事にした。幸い森では木材に事欠かない。


 日没を待ち、完全に暗くなってから梯子を塀まで運んだ。


 暗闇の中、三人は梯子を塀に立て掛けて登りはじめた。


 先頭のベラマッチャが塀の上にたどり着き、用心しながら横に移動して後続を待つ。次にポコリーノが登り、最後にヘンタイロスが塀の上に辿り着いた。


 塀の上に登った三人は気付かれない様に小声で相談し、梯子を持ち上げて塀の反対側に下ろした。


「ゲルゲリー公の話では凶悪犯は地下牢獄に閉じ込められている。きっとシャザーン卿も地下牢獄に違いない。行くぞ、諸君」


 三人は梯子を降り、とうとうサンダーランド強制収容所に入った!


 収容所内は静かであり、物音一つしない。三人は音を立てない様に動き、手分けして建物への入り口を探す。


 ベラマッチャは扉を見つけたが、当然の様に鍵が掛っている。


 ベラマッチャが両腕を組んで扉を眺めていると、建物の別の壁を探っていたヘンタイロスが、声を潜めて話かけてきた。


「ねぇんベラマッチャ、この建物には入れる所は無いんじゃないのん? 地面に石の蓋があるけど、建物には入れそうな所は無いわよん」


「むぅ、流石は刑務所だ。これでは蟻一匹入れんだろう」


「感心してる場合じゃねえぜ。一度外に出て、明日所長に面会を求めたほうがいい」


 三人が潜入を諦め、外に出ようとした時だった。建物の向こう側から足音が聞こえて来た。足音から二人いるようだ。


「看守だ! 巡回に来やがった!」


 ポコリーノが小声で呟き、建物の影に隠れて、ベラマッチャとヘンタイロスに向かって手招きをした。足音に心臓が飛び出るくらいに驚いた二人は、慌ててポコリーノの元へ走って行き、身を隠した。


 足音は次第に近づいて来る。三人は息を潜めて身を隠し、見つからない様に祈った。息を潜めて隠れるベラマッチャ達の耳に、看守たちの話し声が聞こえて来る。


「今日も五人死んだな」


「ああ。明日、死の谷に捨ててこよう。ここの連中は強制労働で死に掛けてる連中ばかりだからな。こんな巡回しなくても、誰も脱獄する体力なんか残ってない。早く部屋に戻って酒を飲もうぜ」


 足音は徐々に大きくなり、見つかるのも時間の問題かと思われたが、退屈な巡回に飽き飽きしているのか、ベラマッチャ達の直前で引き返して行ったようだ。


「ふぅ、危ないところだったな諸君」


「まったくだ。焦ったぜ」


「ねぇんベラマッチャ。早く逃げないと神経が飛び出しちゃうわよん。ワタシ耐えられないわん」


「むぅ、看守たちの足音が聞こえなくなったら梯子まで戻ろう」


 ベラマッチャたちが安堵し、身体の力が抜けた時であった。俄かに看守たちの足音がドタバタと騒がしくなった。


「おい! 塀の所に何かあるぞ! 梯子だ!」


「脱獄だ! 呼子を鳴らせ!」


 突如として呼子の音が鳴り響き、辺りが騒然としはじめた。


 大勢の足音と看守たちの叫び声にベラマッチャたちの心臓は破裂しそうなほど高鳴り、慌てて隠れ場所を探し始めた。


「ポコリーノ君! 早く隠れ場所を探すのだ!」


「そんな事言ったって他に隠れ場所は無いぜ!」


「二人とも、こっちよん!」


 振り向くと、ヘンタイロスが先ほど見つけた石の蓋を退かしている。


「穴があるわん! 人も入れそうよん!」


 ベラマッチャとポコリーノは慌てて穴に飛び込み、最後にヘンタイロスが石の蓋を持ち上げ、後ろ足から穴に入り蓋を閉じた。


 穴の中は人が立てる位の高さがあるが、足が膝近くまで埋まってしまう。光は無く何も見えない。


「うぅっ! 何なのだ、この匂いは!」


 穴の中は悪臭が漂い、三人は片手で鼻を塞いだ。この匂いは尋常ではない。ベラマッチャは手探りでヘンタイロスを探し、荷物の中から松明を出して火を点けた。


「げえっ!」


「うおっ!」


「こっ、ここはん……」


 松明の明りで姿を現したその場所に、三人は驚愕の表情を浮かべた! なんと、ここは便槽の中なのである!


「オゥッ! シィット! ヘンタイロス! ここは便槽じゃねえかっ!」


「ひいぃぃんっ! どうなってるのぉんっ!」


 怒りの形相でヘンタイロスに殴り掛かろうとするポコリーノを必死に止めたベラマッチャは、込み上げてくる怒りを抑えながら、ヘンタイロスに慰めの言葉をかけた。


「ドンマイ! ヘンタイロス君!」


 便槽への落下という現実に三人は嘔吐し、口々に呪いの言葉を吐きながら脱出場所を探しはじめた。幸いにも横穴があり、奥に進んで行けそうだ。


 外への脱出先を探すため、三人は匂いを我慢して横穴の探索をする事にした。


 横穴は先程の場所より少し狭く、松明の明りを頼りに屈んで歩いていく。しかし、悪臭は収まる気配すら感じさせない。ツンとくる匂いが目に染みる。三人は悪臭を堪え、涙を流しながら先へ進んだ。


 暫く歩くと先頭のベラマッチャが立ち止まり、上を指差した。上には穴があり、薄っすらと光が差し込んでいる。どうやら外へ繋がっている様だ。


 横穴はさらに奥にも繋がっており、先の方から幾筋かの薄明かりが差し込んでいる。


「諸君、どうやら上に出られそうだが、もっと奥へ進んで行くかね?」


「冗談じゃないわよん。早く出ましょうよん」


「それがいい。こんな匂いが染み込んじまったら、脚を新しくしなきゃならねえ。俺はお前等と違って、染み込んだ匂いは取れねえんだ。早く外へ出ようぜ」


 ヘンタイロスとポコリーノは口々に探索の中止を主張する。ベラマッチャも匂いに耐えかねて、上に出る事に同意した。


 頭上の縦穴は更に狭く、一人がやっと入れるくらいである。


 ベラマッチャはマワシを外して肩に掛けると、ヘンタイロスの背に乗り穴に入った。穴は以外に短く、少し登ると顔が外に出た。


 ベラマッチャは外に出てマワシを締め直しながら、下に残っているポコリーノに、ロープを持って登って来るように促した。上に出たポコリーノはロープを垂らし、ヘンタイロスに向かってロープを掴んで上がって来るように囁く。


「ヘンタイロス、ロープを放すんじゃねえぞ。身体は通りそうか?」


「ちょっとキツイわねん。壁に身体が擦れて痛いのよん」


「もうすぐ外だ。我慢したまえ、ヘンタイロス君」


 やっとの事でヘンタイロスを引き上げ、狭い便所の中で互いの身体を見比べた三人は、揃ってクスクス笑い出した。


「ポコリーノ君、君の手足は糞塗れだな」


「お前だって、頭にも糞が付いてるぜ。ヘンタイロスなんか、身体中糞塗れだ」


「イヤだわん。酷い事言わないでよん。ベラマッチャの頭の上なんか、糞がとぐろを巻いてるわん」


 三人が互いの身体に付いた糞を評価し合っていると、突然、便所の扉が開いた!


 三人は心臓が飛び出るほど驚き、声が出そうになるのを必死で抑え振り向くと、囚人服姿の男が呆然とした面持ちで立っている。


 お互いに立ち尽くし、見つめ合っていると男が怒鳴り始めた。


「なっ、何だてめえ等は! どこから入って来やがったんだ!」


 男の声に俄かに周りがざわめき、数人が走り寄って来て大騒ぎを始めた。


「何だ、こいつ等!」


「臭えっ! 糞塗れじゃねえか!」


「たっ、担当さ~んっ! 担当さ~んっ!」


 囚人達は糞塗れの三人を見るや否や、口々に悪態をつき、看守を呼び始めた。


 騒然とする囚人達の様子に三人は、悪臭に耐えかねて脱出口を誤った事を思い知ったのだ!


 このままでは捕まってしまう! ポコリーノは咄嗟に目の前にいる男を殴り倒し、便所の中から躍り出た。


「騒ぐんじゃねえっ! どサンピンッ!」


 ポコリーノの一喝に囚人達は鼻を摘みながら静まりかえり、ジリジリと下がって行く。便所の中から様子を窺っていたベラマッチャも、ヘンタイロスを伴い出て来た。


「諸君、僕等は怪しい者ではない。シャザーン卿に用事があるのだ」


 ベラマッチャは、尚も事態を飲み込めていないと思われる囚人達に向かって言い放ったが、囚人達は困惑して顔を見合わせている。


「シャザーン卿? 誰だ? その野郎は? お前等知ってるか?」


「シャザーン卿……もしかして、あの『風の旅団の強盗貴族』……」


「かっ、風の旅団!」


 『風の旅団』と聞き、囚人達は俄かにざわめいた。中には恐怖で顔を引き攣らせている者までいる。


 ベラマッチャは、シャザーン卿を知っている囚人がいる事に喜びを隠さなかった。


「キミィ! シャザーン卿を知っとるのかねっ!」


「あぁ、俺は盗賊ギルドにいたから、連中の事はよく聞いていた。凶悪無比の連中だ。頭目以外は皆殺しにされたと聞いたが……しかし、この刑務所で奴を見たって話は聞いた事がねえ。もう死んじまってるんじゃ……」


 囚人はこの刑務所で、シャザーン卿の事など聞いた事が無いと言う。もしかしたら、死んでいるかもしれないという言葉に、不安が胸を過ぎる。


 ざわめく囚人達の中の一人の囚人が、ベラマッチャに向かって恐る恐る訊ねて来た。


「大体、てめえ等は何者だ? 糞塗れで、突然便所の中に湧いて出やがって」


「これは失礼。まだ名前を名乗っていなかったな。僕の名前はアンソニー・ベラマッチャ。ジャヴァー族の王子だ」


 ベラマッチャは自己紹介を始めた。その態度は礼を尽くしており、明らかに紳士の態度である。囚人達は珍しい物を見るようにベラマッチャを見つめている。


「あの、ウツロの森の向こうに居る裸族の……」


「こちらはポロスのポコリーノ君」


「ポコリーノ! ポロスの木製番長!」


「喧嘩屋P.P.!」


 囚人達は驚きの表情でポコリーノを見つめ、口々にポコリーノの名前を呟いている。どうやらポコリーノの悪名は、このサンダーランド強制収容所の囚人達にも轟いているようだ。


 ベラマッチャは自己紹介を続けた。


「そして、こちらがオカマのケンタウルス、ヘンタイロス君だ」


「オッ、オカマ……?」


 ベラマッチャの紹介に、囚人達は再びざわめきだした。細身の男がヘンタイロスの横に来て、興味深げに身体中を眺めている。


 ヘンタイロスは、自分に注目が集まっている事に気を良くし、周りに投げキッスをしている。


 横に来ていた囚人は、ヘンタイロスの身体を触りながら耳元で囁いた。


「なあ兄ちゃん、好きなんだろ?」


「ウフフ……アンタも好きなのねん?」


「ああ……初めて刑務所に入った時に仕込まれちまった……」


 他の囚人達はそんな遣り取りを無視して、ベラマッチャとポコリーノを交互に見ながら唖然としている。


「裸族? P.P.? オカマ? シャザーン卿に用があるって?」


「あっ、頭がおかしいんじゃねえのか? 好き好んで、このサンダーランド強制収容所にノコノコ入ってくる馬鹿共が、まともな訳がねえ。しかも、風の旅団の頭目に会いたいだと?」


「くっ、狂ってる……こいつ等、狂ってやがる! 係わったら拷問に掛けられて殺されちまう!」


「じょっ、冗談じゃねえ~。係わり合いになるのは御免だぜぇ!」


「たっ、担当さ~ん! 変な奴等が便所に湧いて出やがった! 担当さ~ん!」


 囚人達は再び大騒ぎし、口々に看守を呼び始めた。


 部屋の外から多数の足音が聞こえ、看守が到着するのも時間の問題と思える。


「ベラマッチャ! 看守が来ちまうぞ!」


「こうなったら仕方があるまい。看守に話をして、所長への面会を要求しよう」


 そうこうしているうちに、看守達が扉を開けて部屋に入り、怒鳴りながら警棒で囚人達を殴り始めた。


「静かにしろ! 就寝時間は過ぎてるんだぞ!」


「脱獄囚が出て忙しいんだ! 手間を掛けさせると拷問に掛けるぞ!」


「おい! この部屋の点呼を取ろう! ここが最後の部屋だ!」


 看守達の暴行に囚人達は頭を抱えて逃げ惑い、部屋の隅に追いやられた。暴行が止むと、囚人の一人が震える手で部屋の反対側を指した。


「変な奴等が、突然便所の中から出て来やがったんだ……」


「変な奴等?」


 看守達は不審な面持ちで、囚人の指し示す方向を見て仰天した! 珍妙な格好の三人組がいるではないか!


「誰だ! 貴様等はっ!」


「囚人の数はどの部屋も合っていたぞ! 侵入者だっ!」


「何だコイツ等は! 糞塗れじゃないかっ! どこから入って来たんだっ!」


 ベラマッチャは、慌てふためく看守達を眺めながら一歩前へ進み出て、いきなり話を切り出した。


「看守諸君、落ち着きたまえ。僕等は決して怪しい者ではない。ディープバレー騎士団統領、ゲルゲリー公の使者として参上したのだ」


「ディープバレー騎士団の使者!」


「しっ、失礼致しました!」


 ディープバレー騎士団の名を聞いた看守達は直立不動になり、三人に向かって敬礼した。それを見たベラマッチャは、満足そうに話を続ける。


「キミィ、僕等は所長への面会を求めとるのだ。この通り、ゲルゲリー公から所長に宛てた手紙も持っている」


 ベラマッチャは、ヘンタイロスの背中に括り付けてある荷物から手紙を取り出し、看守達に見せた。封筒には、ディープバレー騎士団の紋がある。


「所長室にご案内致します。こちらへどうぞ」


 ディープバレー騎士団の紋を確認した看守達は、鼻を摘みながら、恭しい態度で三人に案内を申し出てきた。


「へッへッへ……やっと所長と会えるぜ」


 三人は看守達の後について囚人部屋を後にした。看守が扉の鍵を掛けると、扉の小窓からヘンタイロスの傍に居た囚人が顔を覗かせ、名残惜しそうに叫んだ。


「兄ちゃん! 好きなんだろ!?」


 ヘンタイロスは振り向き、囚人に向かって小さく手を振った。

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