ひまわり
みその ちい
第1話 赤い水泳帽
紺色のスクール水着の上に赤い水泳帽を置くと、美穂はフゥーとため息をついた。
風鈴がチリリーンと鳴っている。
夏休みだというのに、学校へ行くのと同じ時間に起こしにくる母さんが、窓を大きく開け放っている。
庭が見える。まだ7時なのに、と美穂は思うのだが、ひまわりが真っ青な空に向かってキリッと顔をあげている。
飛びこみ台からもひまわりが見えたっけと美穂はまた、ため息をついた。
今日はあの高い台から飛びこまなくてはいけない。高飛びこみではなく、コース番号
が書いてあるごく普通の台なのだが、美穂にとってはとてつもなく高いのだ。
今日は夏休み最後の水泳検定の日。
美穂は今、4級で、その証である3本の白線がついた赤い帽子をかぶっている。
ビート板につかまって水に顔をつけると6級、15メートル泳ぐと5級、息つぎをして
25メートル泳ぐと4級、ここまでが赤帽で級が上がるたびに白い線を貼る。
美穂の赤帽にある3本の白線はとても立派だったが、美穂はとても憂うつだった。
3年生の美穂のクラスに赤帽は数えるほどしかいない。たいていはこの夏に赤い帽子を脱ぎ捨て、その上の級を表わす白い帽子をかぶるのだ。
あのまばゆい白帽を手に入れるには、今日、あの高い台から飛びこんで50メートルを泳がなくてはならない。
来年からのプールは高学年クラスだ。赤帽は目立つなぁ恥ずかしいなぁと思いながら美穂は時計を見上げ、のろのろと立ち上がった。
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