第5話 明日があるから

 「美穂ちゃんはだめじゃない」

女の子は美穂にスーと視線を合わせて、ゆっくりと言った。


「今は飛びこみができなくても、いつかはできるようになる。

 少しずつ泳げるようになったでしょ、それと同じだよ。

 友だちもね、これからたくさんの人と会えるよ。いいなぁ」


「よ、よくないよ、今じゃなきゃ。

 高学年で赤帽なんて恥ずかしいんだから。

 お、お姉ちゃんは2年のときにもう白帽だったんだよ」


女の子は美穂がつっかえながら話しても少しも驚いた顔をしなかった。

同じようにスーと視線を合わせてゆっくりと聞いた。


「美穂ちゃんはお姉さんが好き?」


美穂は少し迷った。比べられるとすごく悲しくて、いないほうがいいのにって

思うときがある。だって、美穂はお姉ちゃんと違ってできないことがいっぱい

あって、でも…でもね…。


「うん、好きだよ。

 美穂はお姉ちゃんみたいになりたい」


「なれるよ。美穂ちゃん」


女の子は柔らかい声でそっと言った。美穂と同じくらいやせっぽっちの女の子が、

とても大人びてみえた。


「なれるよ。美穂ちゃん。

 美穂ちゃんはすてきなお姉さんになれる。

 全部同じじゃなくていい。美穂ちゃんが好きだと思う、なりたいと思うお姉さんに

 いつの日かきっとなれるよ。

 だって美穂ちゃんには明日があるから」

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